to be a mother
朝は早く学校に出てしまったから、なにも出来なかった。
帰ってからお母さんに何をしてあげようか。
僕は今日の授業は、ずっとそれで頭がいっぱいだった。
放課後。
みんなが残っておしゃべりしている中、僕は急いで学校を出る。
帰ってみると、お母さんはいなかった。
何処かに出かけているのだろう。
その方がいい。
僕のサプライズのためには、そのほうが都合がいいんだ。
僕は早速、サプライズの準備のために、キッチンに向かった。
母が僕の誕生日に買ってくれたパソコンを使って、母にピッタリの料理を探す。
これにしよう。
ちょっと難しそうだけど、お母さんのために頑張ろう。
僕は早速、料理にとりかかった。
どれぐらい時間がかかったのだろう。
もうすぐ夕食という時間になっていた。
僕はお母さんが帰ってくる前に、急いで料理を食卓に並べた。
よし、いい感じだ。
きっと喜んでくれるよ。
僕は食卓に座り、母の帰りを待った。
待った。
待った……。
もう夕食の時間はとっくに過ぎている。
お母さんはまだ帰ってこない。
きっと、電車が遅れているんだ。
そう思うことにした。
待つ。
待つ……。
帰ってこない。
心配になって電話をかけてみる。
つながらない。
食卓に並べた僕の手料理の前で、僕はじっと待つ。
冷めてゆく料理。
乾いてゆく料理。
それでも待つ。
待つ。
夜中。
お母さんが帰ってきた。
僕は大慌てで玄関に向かう。
「おかえり、お母さん」
「あら、まだ起きていたの? ただいま」
お母さんに続いて、お父さんも入ってきた。
「おかえり、お父さん」
「ただいま。もうとっくに寝る時間だぞ?」
「ねぇ、どこに行っていたの?」
僕は二人に聞いた。
「映画だよ。二人で。豪華な夕食も食べてきたぞ。ごめんな、つれていかなくて。お前、今日はいつも部活で食べて帰る日だったから……」
お父さんが答えた。
「そう……なんだ。……楽しかった?」
「楽しかったよ。最高の誕生日だったよ」
お母さんが答えた。
「そう……それはよかった。おやすみなさい……」
僕は、涙を見られないように急いで部屋に入った。
泣かなくていいのに。
今日はお母さんの誕生日。
お母さんが楽しかったならそれでいいじゃないか!
それでいいじゃないか……。
その時、僕は部屋の外からすすり泣く声が聞こえた。
僕は部屋を出て、声をたどった。
そこにはお母さんがいた。
食卓の前に座ったお母さんがいた。
お母さんは、泣きながら食べていた。
冷め切った料理を。
乾ききった料理を。
僕の作ってあげた料理を……。
「ありがとう。今日は最高の誕生日だよ」
作品名:to be a mother 作家名:飛騨zip