君に幸せを
私の隣にいた君は泣いていた。起き出した私の顔を見ると、余計泣き出してしまった。君は泣きながら、私にしがみついた。
「ごめんね、ごめんね」
一生懸命、君は私に謝った。これで何度目だろう。暴力癖のある君は、私を縛ろうとする、自由を奪おうとする。君は人の愛し方を知らないのか。
目の前の鏡の私は、長かった髪の毛を切られ、首には絞められた跡。腕や顔についている多くの絆創膏や湿布。
今回はさすがに酷すぎた。この傷痕は一生消えることはないだろう。一生、人の目を気にしながら生きていかなければいけないのだろう。
「君は、私に会えて幸せ?」
小さく微笑むと、不意に涙が溢れた。君は、更に顔を歪めて泣いてしまった。
君は今、とても苦しいんだ。私に会ったことで、君は人生を壊し始めている。いつだって私の前に立って歩いていた君はどこにもなく、ただゆっくりと、堕ちていく。
「私は幸せだよ」
小さく震える君の体を抱きしめた。君は一瞬ビクッとしたものの、体を私に預けてくれた。
「君が好き。大好きなんだ」
耳元で永遠と「好き」を繰り返し囁く。君は泣きつかれたのか、寝息を立てている。
私の自由を奪い、人間としての権利も奪い、私は君なしでは生きられない。君はそうやって、君の中にある違和感を消しているんだ。何度も何度も、違和感を拭うために私を傷つける。違和感が消えると、君は泣きながら私に謝る。
君自身が君の心の叫びを知らないのだから、何を言っても駄目だと知っている。だけど、私は君の幸せを願っている。どんなに小さな幸せでも、君のところに来てほしい。私がどんなに惨めになったとしても、君だけの幸せを願っているよ。
「私は、君の幸せを願う人形だから」