ある引きこもりの推理
思路は一つため息をついて、コントローラーを放り投げた。薄っぺらいそれは、本の山と山との間に消える。
「話したいのなら、さっさと話してくれ給え。プレイに予定していた時間だけ、君の話に割いてあげよう。ああ、そうだ。君のことだから、お茶なんて洒落たものを欲しがるんだろう。いいとも、そこから好きな茶葉を選んで淹れ給え」
思路が投げやりに指さした先には、小さな台所がある。勝手知ったる他人の部屋。私はシンクに置いてある食器棚に並んだ紅茶缶の中から一つを選んで取り出した。……リプトンだ。どうやら、他の缶も全てリプトンらしい。以前は私が好むブランドの茶葉が置いてあったように思ったのだが、もう無くなってしまったようだ。
「おいおい贅沢なことを考えるんじゃない、君が欲しがるような高級品はもう無いよ。リプトンで我慢することだ」
仕方ない。
私は小さなケトルでお湯を沸かし、リプトンの紅茶を二人分淹れて、また元の場所へ舞い戻った。お盆にのせてきたティーカップの一つを、思路の前に置く。思路はそれをさっさと飲み干してしまった。
「よし、もう必要なものは無いね。では、話を聞こう」
そうして、思路は体育座りをした。思路なりの、話を真剣に聞く姿勢の表明だ。それを知っている私は、紅茶を飲む暇も惜しんで、事件について話を始めた。
作品名:ある引きこもりの推理 作家名:tei