Robot zone
「Robot zone 展開!」
そのとき、女性の機械音声が、
「Robot zone を展開します」
というと、ギャリッジを中心に、レーザー光で描かれた2重の大きな円が現れた。それぞれの円には、異なる十字が内在した。2つの円は、お互いを求めあうかのように、探り合って回転し、やがて十字がピタリと重なり合った。その瞬間、円の中心から、人型をしたレーザー光のワイヤー・フレームがせり上がり、それは色彩を帯び、瞬く間に実体化した。
「お出でになったか……。んじゃ、ま、こっちも、呼びますか」
おいらは、呪符を取り出すと、軽く放り投げ、伸ばした指先の気で縫いとめた。
「契約のもと、命じる。出でよ。第三の使い魔!」
その刹那、金色に輝く契約の紋章が現れ、左に273°回転したとき、ひびが入ったかと思うと、崩れ去り、後には、見慣れた第三の使い魔シュバルツが立っていた。
「つか、今、呼んだ―?」
「呼んだよ。そのダジャレ、やめろ」
先手を取りたいのは山々だが、こちらの索敵能力も行動範囲も限られている。奴らが仕掛けてくるのを待つしかない。
「あいつら、向こうからは、来ねーんでしょー。さっさと、片付けちまいましょーよー」
「だから、おまえは、いつまで経っても『第三』なんだよ。どんな敵でも、まずは、観察だ」
「つか、今、ムカついたんですけどー」
実際問題として、俺たちが奴らに勝ったことはない。そして、こちらは、奴らに打って出ることはできない。そう、つまり、相手にされなくなったら、戦う事すらできなくなってしまうのだ。なんとかして一矢報いたい。
「おい、いるんだろう? 隠れていないで、出てきて戦ったらどうだ?」
「あんたら、いつも、威勢だけはいいよね」
隻眼の符呪師とその使い魔が現れた。
「そうでもないさ。今日は期待の新人を連れてきた」
呼び出したロボットを指し示した。
「そうかい。では、お手並み拝見と行こうか」
符呪師が使い魔に視線を送り、けしかけようとした。
「……まさか、ウチのロボットじゃあ、オタクの使い魔に触れることもできない。なんて、言わないよなぁ」
「ほぉ、面白い。おぃ、遊んでやれ。どうせ、殴るか、蹴るかさせて、『触れた』とイチャモンでもつける気だったんでしょ。攻撃せずに全部避けてやれ」
シュバルツが、まったくのノーガードでスタスタと敵ロボットに近づいて行った。ロボットのパンチの届く範囲に行くと、ピタリと足を止めた。ロボットがものすごい勢いでパンチを繰り出し始めた。しかし、シュバルツは、やすやす避けてしまう。やがて、蹴りを混ぜはじめる。なかなか良いコンビネーションなのだが、シュバルツには当たりやしない。
パンチの1つをシュバルツが上体を反らして避けた時、急に、ロボットの腕が伸びた。しかし、シュバルツは一つも慌てず、自分も胴体を伸ばして避けた。
「人間じゃないのは、オタクだけじゃないのよ~」
ロボットは、諦めたように攻撃をやめると、言った。
「いやー、シュバルツさんには敵いません。尊敬します。握手して下さい」
「あっ、そう? いやー、照れるな。まぁ、そういうことなら……」
と、シュバルツは右手を出したが、
「バーカ! 誰が、そんな手に引っかかるか」
と言って、すぐに引っ込めた。
その瞬間、Robot zone を形成していた光の輪が、獣を捕らえる罠のように、ロボットとシュバルツの頭上めがけて、球形に閉じた。しかし、
「バーカ、バーカ、俺様がそんなトロい罠に捕まるかっつーの!」
シュバルツは上空から見下ろして言った。
「さて、勝負あったようだな。お前たちと戦うのも無駄なようだ。もう、追うな」
符呪師と使い魔が私に近づいてきた。
「いぇいぇ、お楽しみは、これからでして」
そう、俺が言った瞬間、ロボットが爆発し、辺りにガスが充満した。
「何だ、これは?」
「言ったでしょ。『気体の新人』だって」
「ふん。われわれが、毒ガスごときで、どうにかなるとでも思っているのか?」
「いゃいゃ、毒ガスでもないんだなぁ。巨大で希薄な発泡スチロールとでも言えばいいかな。動きを封じるのが目的さ」
「き、貴様ぁ、こんな物が効くかぁー!」
まずい、奴は動けるようだ。しかし、動きは鈍い。何かできないか? しかし、通常兵器は、奴らには効かない。何か、ないか? はっ、もしかしてこれなら? その位なら、俺だって動ける。
俺は、ゆっくりと、しかし、全力で、右腕をポケットに突っ込んだ。左腕は、コブシを固め、ポケットの前に差し出した。そして、最後の力を振り絞り、ギャリッジをコブシに叩きつけた。
「Robot zone を展開します」
2重の大きな円が、俺と奴らを真っ二つに切断した。
作品名:Robot zone 作家名:でんでろ3