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光と陰、そして立方体

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序章 「それ」



 駅から延びるアーケード付きの商店街。最近は大きなスーパーが林立して、昭和の頃の賑わいは年々減りつつあるが、通勤通学で町の人が利用する生活道路だけに、まだまだ活気がある。
 そんな商店街の真ん中にある玩具店。昔はどの家にも一つはあったといわれる「それ」は、店の前を往来する人を見ている。カラフルな原色の服を着て、そのモザイクはオシャレに変化をする。しかし性格は堅物で、顔も四角く、自分のルールに従えと主張をしている。店頭に鎖で繋がれていてある「それ」を見て、色んな年代の人が足を止めて「それ」の挑戦を受ける――。
「懐かしい」と言う人もいれば、ただの興味本意の人もいて様々だ。ただ共通するのは、「それ」が制圧された姿を見たことがないということだ。


 三学期も始まったある日、毎日この商店街を通って学校に通う少年は、今まで道行く者を挑発し続けた「それ」が見事に制圧された姿で白旗を正面に向けて転がっているのを初めて見た。その姿は八歳の少年を魅了するのに十分だった。幾何学的に規則正しく揃った姿に素直に美しいと感じた。彼は「それ」を手にとって縦に横に手前に回してみると、それはさっきの美しい姿を失い再び挑戦的な態度を取り戻し、彼の手によって元の姿に戻すことは到底出来なかった。
 以来、少年は折角制圧した「それ」を解き放ってしまった事が頭から離れず月日が過ぎた。毎日下校の時に見かけるが相変わらずそれは少年を嘲笑うかのように見ているのだ。

  「俺を負かしてみろよ、ほら――」

 少年は何度も挑む。しかしながら挑めば挑むほどこんがらがる。そのたびに「それ」は、

  「そうら、いわんこっちゃない……」

と笑われてるような気がした。
 ところが――、「それ」を負かす者が現れたのだ。下校の時にたまたま見かけた男が「それ」を手に取りあらゆる方向から「それ」を観察すると、ほんの数分、いや、一分もなかったかもしれない。それは男性の手によってみるみるうちに制圧され、観念したかのように真っ青な顔を向けていた。

  「これは魔法だ」

 その一部始終を見た少年は非現実なものをみたかのような衝撃を受け、その場に立ち尽くしていた。
 男は、少年の顔を見て微笑して去って行く――。男が去ったあと、少年は「それ」を手にしてさっきの魔法が魔法でなかった事を確認する。
「すげぇ……」
 一度乱れると本来の美しい姿を見せない「それ」は今再び本当の姿を見せている。選ばれた者のみがこの魅力を堪能出来る――。少年は去り行く「選ばれた者」の後ろ姿を見て、自分もああなりたい、そう思った。
 以来「それ」は本来の姿を見かけることはなく、同様に制圧されるのも見かけることはなくなった。
 不思議なことに、制圧されている時は町の景色に同化して、道行く者の目にも止まらなかったのに、一度姿を変えるとあらゆる人がそれに挑戦する。そして跳ね返される。

 少年は、これは自分の手によって制圧しなければならない――。勝手にそう思っては、あるだけのお金をはたいてそれを自分のものにする。彼の「挑戦」はここから始まったのだ――。



作品名:光と陰、そして立方体 作家名:八馬八朔