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花は咲いたか

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プロローグ
Γ私は、なぜ女になど生まれて来てしまったの...」
土方はふっと笑う。
Γ決まってんじゃねえか」
耳元で続きの言葉を囁き、ニヤリと笑うと、さっと馬上の人となった。

一章

慶応四年十二月。
明治元年ともいう。
入れ札、選挙が行われた。
薩摩をはじめとする、新政府軍が幕府に大義名分で勝利するための錦の御旗。
そんな絶対的なものに抵抗するために、蝦夷まで来た。
Γで、入れ札ってのが、新しいやり方だってのはわかるが...」
Γ副長、人気投票みたいなものです。あっ、次点ですよ、奉行並に決まりましたね」
側であれこれと耳に入れてくるのが、弱冠十六歳になったばかりの鉄之助。
こいつは頭もいいし、度胸もある、おまけに気も効く奴で小姓にした。
京都で募集した最後の新選組隊士だった。
土方は陸軍奉行並、陸軍の指揮官である。
ついでに箱館市中取り締まり。
Γこれは新選組にはうってつけのお役だな」
ニヤリと笑うと
Γ副長には喜んでいる暇などありません、ほぼ全軍を統べるようになりますから」
Γ鉄、いつの間にお前は、その可愛くないものの言い方を覚えやがった?まるで沖田...」
ハッとして言葉を飲み込む。
皆、死んだ。
芹沢さん、山南さん、藤堂、近藤さんに沖田...。
(俺だけが生きている、そして蝦夷まで来た)
Γ副長、さっそく軍義です」
Γおう、わかった」

旧幕軍の榎本武揚は、江戸品川沖に停泊中の艦隊をそっくり引き連れて蝦夷にやって来た。
途中、江戸から東北までの(薩長にはなびかぬ)という気概のある男達を乗せながら。
五稜郭の会議場に集まったそんな男達の中から声をあげたのは、
Γそれでは、軍義を行う」
会津の母成峠の戦いでも一緒だった大鳥圭助。
陸軍奉行で軍の司令官となった。
(だが、勝ったためしがない、熱い男であることに違いはねえが)
土方は椅子から立ち上がった。
一斉に男達の目が集中する、軍義はまだ終わっていない。
胸ポケットの懐中時計を取り出そうとして手を入れたが、時計はなくひんやりとした鎖だけが揺れた。
(そうだ、開陽丸が沈んだ江差で失くしたんだったな...)
沈みゆく開陽丸になすすべもない自分が、近藤勇を失った時の自分に重なって、思わず懐中時計の鎖をちぎってしまっていた。
Γ大鳥さん、春になれば薩長の奴らは攻めこんでくる。その前にやることは備えと調練だ、違うか?」
Γそう、土方君の言う通り。では、備えと調練についてだが...」
Γ追々決めればいいさ、それより皆に飲ませてやれよ。せっかく凱旋したんだ」
土方はさっさと会議場を出ようと歩き出す。
Γお開きだ」
集まった隊長達からおおっと歓声が挙がり、同時にわらわらと席を立つ。
大鳥は困ってテーブルに広げた地図を指でトントンと弾く。
Γま、いいじゃないか大鳥君。私も喉が渇いた」
総裁に決まった榎本武揚も、肩の金モールを揺らしながら立ち上がる。
Γ総裁がそうおっしゃるのであれば...」
作品名:花は咲いたか 作家名:伽羅