ひとくさり 2
捨てられた物語というのは、何の隠語でも、比喩表現でもない。あるどこかの作者から生み出され、様々な理由から制作を途中で諦められ、半端なままゴミとしてちりあくた同様に扱われた、本来語られるべきだった物達のことである。
話としての体すらも成してない物、結末を投げ出された物、設定の欠片がただ集っただけの物などさまざまある。僕はそれらを、あるいは意図的に加工し、あるいは手探りで、句読点まで導かなければならない。
文章上では形而上的な内容であるが、しかし実際的なところで言うと、これら全ては現実として感じとることができる。
そして今も、捨てられた物語に節目を付けようとして、この日本に似たどこだか分からない街中を額に汗を滲ませながら探索していた。
どうやら現れたこの虹の靄のなかから――謂わばシーンを演出するのに必要な道具置き場から、武器と防具を探すことになりそうだ。おそらくこのなかにあるはずだ、四人を相手取るにおいて、十分有利に事を運ぶことができる、硬さと軽さとリーチを兼ね備えた武器と防具が。
とは言っても、今僕が目で見て肌で感じているここは、捨てられた物語の中である。
物語が何に向かって進んでいるのかは全くもってわからないので、区切りまでたどりつくためにはある程度万のことを推し量りながら物語を紡いでいかなければならない。あるはずだ、とは言っても、武器や防具が本当にこれからの僕に与えられるべき物なのかも、確信がない。 僕が今しがたまでいたこの場所について持っている情報といえば、現在午後の十一時を回った辺りであるということと、女性が四人の輩に追われていることである。
四人の輩に追われていることを確認した僕は、十数回の試行錯誤の末、まず踵を返し、その場から去ることにした。
これが幸いし、設定の欠片が置かれた暗闇を発見することができた。つまり、あの場ですぐ女性を助けることが、作者の意図とは異なっていた、ということになる。
あの四人の見た目の異常性に気づき、常識を無視して去ることこそが正解だったのだ。そして正解を導いたのは、武器と防具が必要だと考えたから、この暗闇のなかにそれがある筈だと予想している。
目の前で百面相をしている鵺的な虹色の靄の中に手を突っ込んだ。