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凛誕!

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VS水泳脳(怜凛)



空は淡いブルー。
天気はいい。けれども、冬なので、やはり寒い。
風の冷たさを感じながら、怜は近くにいる凛の様子を緊張の面持ちで観察していた。
場所は寺の境内。
周辺にひとは自分たちふたり以外はいない。
凛の眼は怜ではなく樹に向けられている。
綺麗な横顔。
その視線の先にあるのは、桜の樹だ。
それも、寒桜だ。
冬の景色の中、桜の花が咲いている。
ただ。
残念ながら。
「あまり咲いていませんが……」
ちらほら程度にしか咲いていなくて、少し寂しい。
もうしばらく日が経てば見頃だろう。
だが、今日でなければならなかったのだ。どうしても。
凛が怜のほうを向いた。
桜を見ていたときの、なにかを深く思っているような表情が、変わる。
「充分、綺麗だ」
ふっと頬がゆるみ、笑った。
胸の中で心臓が強く鳴ったのを感じる。
でも、昔はバカみたいに笑っていたと遙は言っていた。
そのころの凛を怜は知らない。
雰囲気がガラリと変わったらしく取っつきにくくなってからと、地方大会を経て、少し笑うようになった今しか知らない。
凛が転校した先の小学校の校庭の桜の樹を見て、桜のプールで泳いでみたいと言ったのを、この耳で聞いたわけじゃない。
だけど、表面上は変わっても、きっと根っこの部分は変わっていないだろう。
そう思ったからこそ、見せたかった。
冬に咲く桜。
今日は凛の誕生日だ。
遙の家でその誕生日パーティーが開かれる。主役の凛は別に開いてくれなくていいと断ったのだが、真琴が説得した。
パーティーのまえに会ってもらえないかと怜は渚たちに知られないようこっそりと凛に頼み、水泳関係の相談だろうと勘違いしたらしい凛が応じて、今に至る。
ここに来るまえ、見せたいものがありますと怜が告げたとき、凛はきょとんとしていた。
しかも向かった先が寺だ。
そのうえ、肝心の桜があまり咲いていない。
凛がどんな反応をするのか心配だった。
だから、緊張していた。
けれども。
これから先のことを思うと、さっきよりも緊張する。
恐いような気もして、やめておきたくもなる。
だが。
怜は深く息を吸った。
一歩踏みだす決心をする。
口を開く。
「春になったら、桜がたくさん咲きます。僕と一緒に、ふたりで、見に行きませんか?」
すると。
「ああ、いいぜ」
凛はあっさり同意した。
その様子から、怜は自分の言ったことの真意が伝わらなかったことを感じ取る。凛はただの花見の誘いだと受け止めたらしい。
やはり、この台詞では弱かったか……。
怜は考えてきた他の台詞をくり出すことにする。
「凛さん」
緊張する。
「あなたの誕生日を祝うのは今日が初めてです」
考えて、いったんボツにした台詞だ。
「これからは、毎年、あなたの誕生日を祝わせてください」
まるでプロポーズのような台詞だから。
いつのまにか握りしめていた手の内側で汗がわいている。
怜は逃げだしたくなる衝動をこらえて、凛の返事を待つ。
凛は小首をかしげた。
だが、すぐに、表情が変わる。
「ありがと、な」
照れたように笑った。
どうやら、単純に、深い意味なく、誕生日を祝われると受け止めたらしい。
怜は一瞬眼のまえが真っ暗になった気がした。
これも伝わらなかったか……。
しかし。
気を取り直し、別の台詞をぶつけることにする。
「凛さん」
自分をふるいたたせ、そのぶん、感情の高ぶりが声に出る状態で、言う。
「僕を男として見てください……!」
恥ずかしくて、顔から火が出るとはこのことだと思うぐらい、熱い。
凛は眼を丸くした。
そして。
「おれはおまえを女として見たことねぇぞ?」
「……ええ、そうでしょうね」
低く暗い声で返事した怜を、凛は不思議そうに見ている。
さすが、水泳のことしか考えていない、水泳脳だ。
しかも水泳脳のくせに、授業を聞いているだけで偏差値高めの高校のテストでトップクラスの成績なのだ。
ああ、もうダメだ……。
ここまで伝わらないと、さすがに、気持ちがくじける。
あきらめようか。
何事もなかったように、ここを離れようか。
……。
でも。
でも。
やっぱり。
あきらめたくない……!
怜は決意した。
強く、引き締まった表情で、真っ直ぐに凛を見て、口を開く。
「凛さん、僕はあなたが好きです」
はっきりと言った。
けれども、凛の表情から、好きの意味を怜が言ったのとは違う意味にとらえているような気がして、凛がなにか言うまえに、怜は言う。
「あなたが先輩だからだとか、友情とかって意味じゃない。アイ、ラブ、ユー、なんです!」
ああ、恥ずかしい。恥ずかしくて、たまらない。
けれども、逃げない。あきらめない。
伝えたいから。
どうしても。
「僕はあなたの誕生日を祝いたい。あなたが生まれてきたことを祝いたい。僕はあなたが好きだ。あなたに触れたい。あなたと一緒にいたい」
恥ずかしくても、どうしても伝えたくて、思いついたままに、自分の気持ちをどんどん口から出していった。
「僕とつき合ってください」
頭を下げた。
眼をぎゅっと閉じている。
凛の返事が、正直、恐い。
しばらくして。
「……あのな」
「英語の発音の修正は受けつけません」
「いや、この状況でそんなことしねぇよ」
怜は頭をあげる。
けれども、凛のほうを見ないでいる。恥ずかしいし、返事が恐いからだ。
「これまで、何度か告白されたことがある」
凛が言った。
それを聞いて、怜は思わず凛を見た。
「ちょっと待ってください。あなたが告白と認識するような告白って、なんて言われたんですか!?」
「恋人になってほしい、とかだが?」
「その手があったかーーーーー!」
怜は叫んだ。
恋人になってほしい。たしかに水泳脳でも誤解のしようのない台詞だ。
どんな状況でその台詞を言われたのかは知らないが、持って行きようによってはスマートに決まっただろう。
自分の告白とは雲泥の差で。
「どうせ僕の告白は美しくありません……」
「おい、話をもどすぞ」
いじける怜に、凛が声の調子を強めて言った。
「これまで告白されたことは何度かある」
綺麗な顔に笑みはない。
真剣な表情。
「でも、心が動いたのは初めてだ」
その凛の台詞を聞いて、怜はポカンとした。
予想していた台詞とはまるで違ったから。
耳を疑った。
「……ええっ!?」
一瞬、間を置いてから、怜は声をあげた。
すると、凛は眼を細めた。
「水泳に集中したいから、恋愛なんかしてる暇ねぇって思ってた。でも、こういうのって暇があるなしなんて関係ねぇんだな」
言い終わると、横を向いた。照れくさいのを誤魔化すように。
「ええええええっ!?」
また、怜は声をあげた。
信じられない。
嘘みたいだ。
夢をみているのだろうか。夢みたいな展開。
「あんなカッコ悪い告白だったのに」
「たしかにカッコ悪かったな」
「うっ」
「でも、だから、逆に伝わってくるもんがあった」
本当に、信じられない。
現実感がない。
そんな怜に、凛が手を差しだしてきた。
怜はその凛の手を見つめる。
なんだろう、この展開は……?
怜が戸惑っていると、凛は形良い眉を鋭くした。
「さっき、おまえが触れたいって言ったんだろ」
顔をしかめている。
でも、きっとそれは照れ隠し。
作品名:凛誕! 作家名:hujio