ケニアに輝く
熱い。
泥と牛糞を混ぜて作った小屋からでると地獄のような世界が広がっている。
俺は映画が観たい。
しかし、俺たちマサイの男にとって、それは叶わぬ夢なのかも知れない。
「ヒデリニャー!仕事よ!」
幼なじみのムカミの罵声が広大な大地に響き渡る。
俺は日本に行きたい。
日本という国には映画があるという。
しかし家にそんな金があるわけもなく、やはり諦めるしかないのだろうか?
ケニアはでかい。
俺とムカミの仕事はヤギの糞掃除である。
こんなケニアでの生活にも飽きてきた。
やはり思い切って日本にいこうか。
俺はムカミに話してみることにした。
「なぁムカミ。俺、日本、行く。どう思う?」
「ムカミ、分かんね。けども、ヒデリニャー、日本、行く、それ、どうして?」
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「俺、映画観る、カラオケ行く、DEEN歌う!」
俺はこんな話を続けた。
仕事が終わったのは夜になる直前。
地平線の無効に夕日が沈み、
空の半分は紺色に、もう半分はピンクとオレンジに染まっていた。
星が一つ二つ、輝いていた。
帰り道、ムカミは俺が日本に行くという話について、一言も触れなかった。
しかしムカミは歩きながら、夜空に光る幾千の星を見つめながら、こうつぶやいた。
「この星、日本でも見える。空、繋がっている。」
その時、俺は日本に行くことを決意した。
だってムカミと離れることは、淋しいことじゃないのだから。
この空の下のどこかに俺とムカミがいて、同じ空を見られるのだから。
大空のスクリーンには俺たちの心が映し出されるから。
幾千の星たちと、どこまでもつづく夜空が教えてくれた…
…長い夜の出来事だった。