ihatov88の徒然日記
32 偶然に見かけた「後輩」 9.3
今から18年前、単車で日本を一周しました(『鉄の馬で日本を駆けろ!』という拙作があります。よろしかったらどうぞ)。およそ1ヶ月兵庫県を北へ行き、南へ下り、そして帰宅。まだ若かりし大学生のころでしたが、自分的にはやってよかったと思っています。ただ、社会に出てしまうとなかなかそんな暇もタイミングもないので時には現実から逃げてその頃を思い出しては自分を若返らせている毎日です。
昨日は遅れて沸いた夏休みを頂戴して、近くを単車で転がしていていると久々に自分をホットにさせる者が走っていたのですよ。
走るのは国道2号線、ちょうど明石海峡大橋の真下を走っていたときです。数十メートル前方に見えるアメリカンのバイク。後部座席には山ほどの荷物とそこにささっている4本の三角旗……。
北海道をツーリングしたことのある人なら大概知っているのですが、北海道では夏の間だけ「ホクレン」のガソリンスタンドとホンダのバイク屋で給油もしくは修理したら上記の旗がもらえるのです。それも北海道は道東、道央、道南の3地域で旗の色が分けられていてプラスホンダの系列店で1種類で計4色の旗があるのです。前のバイクにささっているのは正にその旗なんです。現在でもその企画は続いているんですね。
私は嬉しくなってスピード上げてそのアメリカンに近づくとやはりその旗は北海道で貰ってきたものに間違いない。ナンバープレートの上にもうひとつのプレートが、
日本一周 お先にどうぞ
と書いてある。倉敷ナンバーのそのアメリカンは日本一周の途中と見て間違いないようだ。そしてここは兵庫県、倉敷のある岡山県まではもう隣ではないか。
「おお、久々に見たわが同士!」
ワタクシは嬉しくなって追い越しざまに手を振ってやると大きく手を振り替えしてくれたのです。いいなあ、日本一周。思えば昔自分もやったことだけどそれは平成8年の話であって、今の日本一周とはやっぱり違う。
「頑張れよぉ!」
と言って給油のため付近のガソリンスタンドによると、あとから私を追いかけるようにやってきたのですよ、彼が。たまたま給油しにきたという偶然。年甲斐も無くワタクシはその日本一周中のアメリカン乗りに声を掛けました。
「日本一周の途中かい?」
「そうです、もうすぐでゴールなんです」
ひげを蓄えた年齢20代くらいの青年はニコッとして答えてくれた。出発して40日、岡山を南に下ってから北へ上がり、現在はゴールに向けてまっしぐらとのことだそうだ。
「いいねえ、俺も18年前に単車で日本一周したんや」
と言うと彼は目を爛々とさせてワタクシに握手を求めてきた。
同じ志をもった者は話が早い。家事をほったらかしてプラッと単車を転がしてきたことなどすっかり忘れ、すっかり意気投合したワタクシたちは近くのファミレスで食事をしながら彼は現在進行形の話を、ワタクシは18年前の思い出話をして時間が過ぎていったのでした。
「どうだい?道中で日本一周した人って結構いたろ?」
「そうですね、何人かいました。それで誰もがこうやってメシおごってくれました」
二人で大笑い。そしてワタクシは彼に答えてやったんです。
「俺も道中いろんな人におごってもらったよ」
その旅が楽しい反面、大変なことも知っているつもりです。今までお世話になった人に対してお返しすることはなかなか出来ないし、お返しすると返って失礼になることもあります。自分的にはそのお返しは同じ志を持つ後輩にしてやるのが一番かな、と思っているのです。そんな人に会えてよかった。そして現在進行形で頑張っている彼の話を聞いて少し若返ったような気がしました。
お礼を言われて彼はまた西の方へ走り去っていきました。ゴールはもうすぐのようです。「気をつけて安全運転で行けよ」とその後姿に声を掛けてやりました。
作品名:ihatov88の徒然日記 作家名:八馬八朔