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夏経院萌華
夏経院萌華
novelistID. 50868
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魔王が死んだなら・・・第一回・・・

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僕が勇者として村を出てから、早10年。それなりに成長した。たくさんの試練に打ち勝ち、ついに魔王と対峙する日がやってきたのだ。
本当に長い道のりだった。
最強の武具と伝説の武器を携え、僕らは魔王の住む城に立ちはだかっていた。

幾多の困難を乗り越え、数々のトラップをすり抜け、何度も迷いながら、ついに魔王のいる場所までたどり着いた。
僕は重たい魔王の間の扉を開ける。
(やっとここまで来たか)
武者震いをした。仲間と共に、いざ、魔王の間に入ったとたん、
禍々しい雰囲気が・・・・・そこにはなかった。
目の前にいるはずの魔王の姿が見当たらない。
(罠か)
魔王が座していた玉座へ辺りを気にしながらジリジリと近づく。
しかし何もない・・・
そこにあったのは、何の変哲のない封筒が1枚置いてあっただけだった。

「 勇者様へ
よくぞ、ここまで、たどり着きました。その頑張りに敬意を表します。しかし私はあなた方に謝らなくてはいけないことがあります。
それはあなた方がここに到着するころにはこの世に居ないと言う事です。
いつの日か、あなた方によって私が倒されるのではないかと言う恐怖のストレスと長年ここに座っていた運動不足で私の心臓はかなり弱ってしまいました。
あと何年後か、わかりませんが、おそらく、あなた方はここに立ち、この手紙を読むでしょう。あなた方は私を倒すことなく。その使命を果たすことになるのです。
でも本当にそれでよかったのでしょうか?本当は私と死闘を繰り返し倒すことこそ真の使命だったのではないのでしょうか?そう思うとあなた方に申し訳ないことをしたと思ってしまうのです。だけど、私はもういません。どうか、どうか、あなた方のこれからの人生、腐らず、頑張って生きていってくださることをお祈りいたします。本当にごめんなさい。ではさようなら。 魔王より。」

僕は魔王の手紙を読み終え、落胆した。
力なく腕をストンと落とし、重たく煌びやかな伝説の剣をガチャリと落とした。
周りの仲間も次々と手紙を読み、しばし呆然となった。
しばらくして、戦士がぽつりと
「お疲れ!」とあきれ顔で言い、めいっぱい壁を叩き、その場を後にした。
僧侶もまた
「ああ。実家の病院継ぐかなぁ」と杖を床に置き去っていく。
残された魔法使いはその場に立ちすくんだが、やがて、ぽつりと
「私、就活しようかなぁ。それとも結活でもしようかなぁ」と髪をなびかせ、魔王城を後にした。そして僕だけがその場に残された。

その日の夜、僕は近くの村の酒場に居た。
酒をあおり、やけになった。
僕は勇者以外の何物でもない。ほかの戦士や僧侶たちはまだいい。手に職があるし。頭もいい。だけど僕はすべての事が中途半端で完璧なものなどない。あるのは必殺技くらいだ。そんなもの、履歴書の特技の欄に恥ずかしくて書けやしない。
この平和な世の中に勇者などと言う需要があるわけないのだ。
「酒を持て来い」とやけくそになって酒場のオヤジに言った。
「飲み過ぎですよ。勇者様」
「うるせえ。金ならいくらでもあるんだ。もってこい」
そう、お金ならたくさんある。腐るほどある。貯めに貯めこんだ。
そりゃそうだ。魔王を倒すためたくさんモンスター倒したのだ。当然お金も貯まる。遊びなどせず、まじめに人々の平和のために頑張っていたのだ。だから、お金など使う暇がないのだ。
 どれくらい飲んだか、わからなかった。
「酒はまらか」ともう舌が回っていない。
たくさんの酒を飲んだからと言って魔王は生き返らないのだが。この怒りの矛先と虚しさを紛らわすには酒しかなかった。
(ああ・・・なんで死んだのだ。せめて僕に倒されるまで生きていてほしかった)
まさに勝手である。もうワガママでしかない。世の中が平和になったのだからそれでいいのではないか。なのに、この余りある力をどこにぶつければいいのか、わからなかった。
(ああ。魔王よ。なぜ死んだ)
心臓病である。
(僕がもう少し早く行けばよかったのだ。あんなところでレベル上げしている場合じゃなかった)
心配性なのである。
色々と自問自答し結局、僕は、その日、酒場で一夜を明かした。
気が付くと毛布がかかっていて、置手紙がぽつんとカウンターに置いてあった。

「寒いので風邪ひかないでください。お気持ちを察することはできませんが、どうぞ心行くまで、この村でお寛ぎくださいませ。酒場のオヤジより」

(ああ・・・完全に同情されているよ)
情けないやら悔しいやら、何とも言えない感情が沸いてきた。もうこの村から出よう。そうだ。このまま出よう。お金はいくらおいていけばいいのかわからない。とりあえず、1000Gを置いていこう。どうせ、つかえきれないほどあるのだから。
 羽織っていた毛布を綺麗にたたみ、置手紙の上に1000Gを置いた。
店から出ようと席から立ち上がった瞬間、扉が開く。
「起きていましたか。よかった。勇者様、どうか私の息子をお助けください。」
久々の依頼だ。
 僕は嬉しかった。まだ僕を頼りにしてくれる場所があったのだ。だから、その依頼を二つ返事で受けた。
 内容は息子(27)が北の洞窟に金の欠片を取りに行ったまま戻ってこないので、連れ戻してほしいと言うことだった。
 昨日飲んだ酒を抜くためにたくさんの水を飲む。そして、ガッシリとした鎧を纏い、剣と盾を携える。
道具屋に行き、薬草を手に入れないといけない。もう僧侶はいないのだ。
そこで薬草と毒消し草を20個ほど買ってきた。
 その足で北の洞窟に向かった。
入口に入る時はいつも緊張する。昔は松明を持っていかないと真っ暗な洞窟だったが、いつの間にか自動で明かりが点くようになっていた。便利な世の中になったものだと感心した。洞窟の中では、まったく敵が現れない。この辺まで来るといつもは敵に遭遇するのだがその気配すらない。
(ああ・・・魔王が居ないと、こうなるのかぁ・・・)
僕は少し肩すかしにあった気分だった。そのまま突き進むと途中宝箱を発見するが、すべて空だった。
当たり前である。僕がこれまでほとんどの世界の宝物をゲットしているのだから。
(なんかつまらない)
そう、感じるのも、つかの間、遠くの方でぽつりとつまらなさそうにして座っている青年を見つけた。
僕が近づくその気配を察してか、あくびをしていた口を手で押さえ、
「ああ・・勇者様。道に迷ってしまい、ずっと助けに来るのを待っていました」とほざく。
(なんか嘘くせえな。)
だが、依頼は依頼だ。あまりいい気はしなかったが、彼を連れ、洞窟の外まで行き、村まで帰っていくと、村人は待っていたかのように集まっていた。
「よくぞ息子を助けてくれた」と大はしゃぎする依頼主。その日の夕方からなぜか宴が始まった。お祭りはいいものだ。僕も気を良くし、酒を飲む。かわいい女の子と酒を飲む。
(久々だなぁ・・・こんな気分。勇者やっていてよかった)
 その宴は夜遅くまで続いた。僕は飲んだくれ、そのまま宿に泊まった。