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しつらくえん

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読んだことない、と言うと、理沙がただでさえ大っきい目をもっと大きくした。

「ええー、意外!如月っていっつも本読んでんじゃん。流行り物は大抵チェック済かと思った。」
「ひとをミーハーみたいにいうな。」
「ミーハーじゃないけどオタクでしょ?」
ちくしょう反論できねぇ。
「んじゃあ、如月も内容は知らないんだね?」
話の発端である真綾が言ったから頷いておく。いや、アウトラインくらいは新聞の書評で知ってるけど。というか、真綾とか亜理子とか留依とかが目キラキラさせてる時点で大体想像つくわ。
三人共エロ話好きね、ほんとに。

流行りの恋愛小説の話ってなら分かるけど、その小説の中の 毒を飲んで死ぬ瞬間の話 なんて。高校の蒸し蒸しした体育館の隅で話すには、いささか不健康な気がするけど、私は 同じ年頃の女の子達がもつ血色良くて瑞々しい不健康さが案外好きだ。

それぞれの香水やらシャンプーやらの匂いが混ざってるの以上に、私達の体からはうざったいほど甘ったるい体臭がしている。
それは言ってみれば蝶を誘う花の匂いで、つまり、私たちの前でバレーの試合中の男の子達の中には、この匂いを心底求めてる人がいるってことは、知識としては知っている。
女の子達は彼らに向けた甘い匂いを振りまいたまま、湿度の高い体育館で「究極の愛」を論じているのだ。
論じながら、みんな誘うべき少年に器用に流し目していることだって、私は知っている。
つまりね、一番イイときにね……
真綾のひそめた声も、理沙の潤んだ瞳も、誰かのベビードールも、誰かのヴィダルサスーンも、全部、全部、甘ったるい。

ボールの跳ねる音と、まとわりつくような湿度を感じながら、いつか遠い未来、私はこの瞬間を思い出すのだろうと思った。

なんでもない日常だったけれど、この場所もきっと楽園だったのだ、と。
作品名:しつらくえん 作家名:ことめ