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お返し

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陽射しが差し込む窓に 何かが煌めいた。
ふと顔を上げ キミと新しく買ったカーテンを全開にし 確かめるけど何かわからない。
きっと春の偵察隊でも訪れたのだろう。なんて夢見る少年気分で原稿に書き止めるボクが居る。

朝は冷えていた部屋もいつしか過ごしやすい快適な空間になっていた。でもまだ外は寒いのだろう。郵便を届けに来た配達人が手袋で押さえた鼻の頭が赤かった。
(ごくろうさま)
わずかな時間のドアの開閉でも ぞくぞくっと冷える感じはわかった。

郵便物は仕事先の担当者からだったが、通常の依頼予定表に付箋が貼ってあった。
『至急で申し訳ありませんが、こちらもよろしく ^^ 』
なんだぁ この最後の能天気なマークは と思いながら一目で内容は理解できた。
その原稿のことを考え始めようと その紙を手に仕事場にしているリビングをうろつく。動物園の凛とした獣のように 部屋の端から端を悠々と歩いているつもりが、違うことが思考に迫ってくる。邪魔をする。文字を見ているはずが宙へと焦点がずれている。足を止める。溜息をつく。(はぁ)焦ってくる。
ついには「もうそんな時期か」と独り言を零してしまった。

ボクは机の上に置いた空の小箱の蓋を開けた。まだ仄かに残るその香りを鼻に感じた。
キミがくれたチョコレートを食べた時の まろやかな甘い味覚と嬉しさを想い出す。脳裏に描く。『にゃん』キミの笑顔まで出てきて(こら 邪魔するな)とにやけてしまう。慌てて辺りを見回すが 当然 部屋にはボクだけでほっとした。

あの日、幾人の人がこんなふうに 幸せな気分になったのだろう
どうして返事となる日は一か月もあとなのだろう
この一か月の間、渡した人はどんな気持ちで待っているのだろう
返事する方も せめて一週間とか十日くらいじゃないと気持ちが一転二転しないだろうか
ただのイベントだから プレゼント商戦もちょうどいい期間なのだろうか
そっか そのあいだには 桃の節句もあるしな

ボクは、その依頼の締切日――今回は印刷を必要としないイベント用のスピーチ原稿だ。当日使われて廃棄されていくのだろうな――前日にパソコンからデータを送信して終了した。
作品名:お返し 作家名:甜茶