非普通
初乃内 紀伊 (1)
俺は特にすることも無いので道を歩いていた。
土曜日の昼、ほとんどの人間はやる事がある。いや、やらなければならない事がある。友達と遊んだり、仕事をしたり、家事をしたり。
しかし俺は、することが特にない。そのため道を歩いているのだ。
そんな俺の目の前に一人の少女が立っている。いや、浮いているのだ。
しかも彼女は助けて欲しい、と言ってきている。意味がわからない。
俺はもちろん無視した。
この子どこまでも着いてくるんだよなー!
どんなに早く走っても、家の中に入っても。追いかけてくるんだよな。もう壁とかもすり抜けちゃうし。
で、今は逃げ疲れて、公園で休んでいるところだ。ちなみに隣には少女がいる。
もうこの子を助けた方が楽なんじゃないか、と考えた俺は少女と会話をする。
「お前、名前は?」
「あ、やっと話してくれましたね。私の名前は初乃内 紀伊と言います。いい名前でしょ」
「おっけ、名前はわかった。次は何で浮いてんだ?」
「その前にあなたの名前を聞いていません」
「あぁ、わりぃ。俺は井上 健太だ。早く浮いてる訳を教えてもらおう」
「そんなのは簡単です。死んだからですよ。もしかして健太さんはバカですか?それとも高度なボケですか?」
「は、死んだ?じゃなんで今いるんだよ?」
「わかりません」
「なんにもわからないのか?」
「はい、わかりません」
「じゃ、何なら分かるんだ?」
「えっとですね、わかることは、死んだことと自分の名前ぐらいですね」
「生きてた時の住んでた場所とかわ?なんで死んだとかわ?」
「わかりません」
俺は空を見上げた。
青い空、白い雲、ほんと気持ちいいくらいに晴れている。
「じゃ、何で俺に助けてって、言ったんだ?」
「偶然目の前にいたからです」
「マジかよ…………で何を助けて欲しいんだ?」
「私を成仏して欲しいんです。そしたら天国に行けますから!」
「……………どうすればいいんだ?」
「わかりません」
「おい、マジかよ。どうすればいいんだよ」
「わかりません」
「………………………………成仏してないってことは、この世に未練があったんだろ。多分。それを解決すればいんだ」
「なるほど……………それで未練は何だったんでしょう?私は特に思い当たりませんが」
「…………死因とかも覚えてないんだよな?」
「はい、覚えてません」
「はぁぁ、どうしたもんかなぁー」
沈黙
「あ、私思い出しました!」
「本当か!何をだ?」
「住んでた場所をです!」
「よし!いい手がかりだ。で場所はどこなんだ?ここから遠いのか?」
「ここからの行き道は知りません。だってここの場所を知らないいですから」
「え、ほんとに!?じゃその場所には行けないのか?」
「…………はい、いけませんね」
「ふりだしかよ」
ぐぅぅぅ
「は、すみませんお腹がなってしまいました」
「幽霊もお腹すくんだな」
「もちろんですよ。お腹は空きますよ!」
「………………金とかは持ってるのか?」
「いいえ、持ってません」
「じゃ今日はどこで寝るんだ?」
「わかりません」
「…………………俺の家で寝るか?」
「いいんですか!?」
「まぁな」
「じゃ、停めていただきます。………………あ、私にエッチな事をするのはやめて下さいよ!もししてきたら通報しますから」
「しねーよ、そんな貧弱な体に興味はねーよ」
「な、貧弱!?変態ですか!?」
「な、なんでだよ!もうとりあえず帰るぞ!」
「しょうがないですね」
俺と初乃内は歩き出した。