終わらないうた
游ぐのをやめよう
そう。
それは突然やってきました。
急にどこからか突然やってきたひらめきにより、穏やかな海面をゆく私を乗せた安心の一艘の小船は、突然砂の舟に姿を変えて、サアッと崩れ私のもとから外へと溶け出し流れてゆくのでした。
かき集める間もなく、足元から崩れ去ったのでした。
突然水中に落ちてしまった私は、頭は真っ白になり、呼吸は乱れ、なにも聞こえず、何も見えず、泳ぐことさえできずに、かろうじて手足をばたつかせるだけでした。
どんどん息が苦しくなり、いえ、呼吸さえも忘れていたので、胸が苦しくなりました。
このままではいけない。ようやく私は、ひらめきに支配されながらも自らを助けるべく、なんとか思うようにゆうことを利かない手足を無我夢中で動かし、海の中をもがき泳ぎはじめました。
陸はどっち? こっち?!、いや、 あっちかしら! それとも、あっち?!
無駄にあちこち海の中を泳ぎ回り、息苦しく身体は疲れていきました。動けば動くほどもつれてゆく手足。
もがきながら、再び海の底に落ちてゆこうとしたそのとき、私はふと泳ぐのをやめました。
身体の力を抜き、ただ、水中に身を委ねたのです。
どこへも行かない、もう沈むのならそれはそれで構わない。
目を閉じて意識をここに、私は海の底深く沈みゆくことに決めたのでした。
気付くと、身体はゆらゆらと海面にぷかりと浮かんでおりました。
青い空と白い雲が見えるばかり。
急に私に取り憑いたひらめきはすでに去りました。
それから、ひらめきが暗示した世界はまだこの世界には存在しないことがわかりました。
あったのは私の頭の中にだけ。ひらめきがやってくる前の平穏が胸に訪れました。
誰かの声が聞こえます。
もうすぐ私は再び舟の上に引き上げられることでしょう。
作品名:終わらないうた 作家名:BhakticKarna