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神坂 理樹人
神坂 理樹人
novelistID. 34601
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死神の質量

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 穏やかな春の夜。私は突然に目を覚ました。何かがのしかかってきたように体が重い。呼吸が苦しくなって口を開けて殊更に大きく息を吐き出した。
 一体何事だ。
 物の怪の類でも出たかと思って私ははっとなった。
 子供の頃、なかなか寝付かない私に母がよく言っていたことだ。
「悪い子にしてるといつか死神がアンタを狙ってやってくるよ」
 昨日は会社で平凡なミスをして上司に怒られたばかりだ。最近は残業してから同僚と飲みにいって、朝帰ってくることもある。妻の怒る顔も見飽きるほどだ。
 休日は一日横になっていて家族サービスも全くと言っていいほどしていない。
「確かに悪い子かもしれないな」
 私は自分を嘲って目の前の恐怖から逃げ去るように布団を深くかぶりなおした。
 寝覚めは非常に悪かった。
 とはいえ、昨日の死神から逃げ切ったことに感謝する。朝の日差しが眩しい。朝食も喉を通らず、コーヒーを一杯だけ飲んで家を出た。
 ちょっと歩くだけで息が切れた。こんなに自分の体は重かっただろうか。野球青年だった学生時代の勢いはどこに忘れてきてしまったのか。どうやら昨日の死神は私を未だに狙っているらしかった。
 翌週、会社の健康診断を受けた私は問診で担当医に恐る恐る聞いてみた。
「最近体が妙に重くて、すぐに息切れするんです。それに夜も寝苦しくて息が詰まるような気がしまして」
 それを聞いた担当医は目を丸くして驚いた後、やんわりと笑顔を作ってこう言った。
「ご自覚があるなら今日からでも始めましょう。まずは間食とお酒を減らして、一日三十分でも有酸素運動をやってみましょう」
作品名:死神の質量 作家名:神坂 理樹人