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金色の双璧 【単発モノ その2】

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Scene  20.涙 


1.

 真円に近い月の光に満たされた夜はひどく残酷で、とても美しかった。闇がどこまでも薄く広がり、安らぎには程遠い感情がアイオリアを満たす。昏い欲望に蹂躙された闇の中をやっとの思いで泳ぎ渡ろうとアイオリアは抗っていた。
 眼下に広がる光景は薄い闇の中、次々に破壊された古の社殿。アイオリアとて闘いの際、やむなく建築物を破壊してしまうことがあるけれども、歴史ある建物それ自体を破壊することを目的にするなど皆無だ。ただの土埃と化して黙する遺物が、悲嘆にくれるアイオリアを物悲しく憐れんでさえ見える。
 世界には数多の神々がいて、またその神々を信奉する人々も数知れないだろう。ただ一つの神をとっても大樹を支える根のように信奉の仕方とて幾筋にも分岐し、深く、広く地中に張り巡らされているのだと思う。アテナという女神にしても、ただ祈る対象である人もいれば、アイオリアたちのように一生涯を捧げ尽くすような聖闘士のような存在だってある。アイオリアたち聖闘士ですら大樹を支えるために張り巡らされた根の一本にしか過ぎないのだ。時に、その根の一部が腐り、じわじわと周囲へ蝕み拡がり、やがて大樹を枯らそうとも。

 ―――斥候の者たちからの安否が確認できぬ。少々厄介な手合いらしい。行ってくれるか、アイオリア。

 そうシオン教皇から勅を下され、共に向かったのは珍しくデスマスクとである。本来ならば、シャカをとシオンは思っていたらしいのだが、シャカはいま、サガとともに次元の狭間に堕ちてしまったという多勢いる遭難者たちの救出に向かっているらしく、手が回らないのだということで同系統のデスマスクが駆り出されたのだ。
 「なんで俺様が……」と道中、文句タラタラとやる気ゼロであったデスマスクもさすがに現地に到着すれば、ピリとした緊張に包まれていた。先行するように気配を探ったデスマスクから漏れ出た、ため息交じりのことばにアイオリアは顔を顰める。

「ありゃりゃ……こりゃヤバいな、斥候の青銅と白銀、堕ちかけてるわ」
「かなりマズイ状況なのか、デスマスク」

 どこに―――などと愚かな質問はしない。デスマスクの領域で『堕ちる』となるならば、行きつく先はあそこしかあるまい。

「まずい、まずい。相当まずい。ちょっくら俺様が、拾ってくるから。おまえは敵さん排除しとけよ?ま、ヤバそうになったら、逃げとけ」
「誰が逃げるか」

 「そりゃ頼もしい限りだ」と笑いながら、フッと掻き消えたデスマスク。早速、彼の領域へと向かったのだろう。
 しんっ……と静まり返った闇が耳に痛い。澄んでいるのか、澱んでいるのか判りかねる夜気の粒子がひどく息苦しくさえ感じたその時、月を背に一つの影がかろうじて全壊を逃れた柱に舞い降りた。
 白い外套で全身を覆い、月の逆光で相手の顔はよく見えなかった。まるで白い大きな鳥のようだとアイオリアは目を凝らす。
 ひどく空気が薄い―――そんな気がした。ぐっと押さえつける様な圧迫感。聖闘士でいうなれば白銀……いや黄金級の小宇宙のようにさえ感じられた。そして、それに続くようにまた一つ、また一つ……影が増えていく。それらは闇夜にも映える弧を描く形状の剣を各々手にしていた。

「厄介な手合い、ね……」

 少々骨が折れそうだなとアイオリアは沸々と小宇宙を漲らせた。
 剣で挑んできた者たちは屈強な者たちであったけれども、それでもアイオリアの優位は変わりなく、ひと時応戦したのち決着はついた。それまでずっと傍観していた白い外套の者がようやく柱からトンっと優雅に舞い降りる。ふわりと取り払われた外套の下から露わとなった姿にアイオリアは息を呑んだ。
 月のような淡い白金の輝きを放ちながら、滑らかな絹糸が舞うように風に長い髪がなびく。スッとアイオリアを見定める強い意志を秘めた眼差しや、整った顔の造形も無駄なものは削ぎ落としたほっそりした体躯さえもまるで、聖域の最高峰に位置する実力の持ち主であり、かつアイオリアにとって大切な存在であるその人―――シャカを想起させる者だった。ただ違うのは黄金聖衣を纏っていないことと、その手にした長剣だ。思わず、アイオリアは名さえ尋ねるが。

「―――異教徒に語る名などない!」

 吐き捨てるように告げた相手は持ち主のようにスッと細く伸びた長剣の切っ先を定め、すべてを薙ぎ払うように圧倒的な力でアイオリアに容赦なく挑んできたのだった。