鶴の恩返し
「いいや。あたしはじいさんから受けた恩を忘れないよ。今でも思い出して、涙が出るよ。ズシーンときたね、アレは。あたしも同じように、ズシーンとした恩返しをじいさんにするまでは帰れないんだよ」
「わしらはそんな重い恩返しは望んでおりません」
「いいや、一つあるはずだ」
「え?」
「最初にこの家の敷居をまたいだときから感じていたんだ。あんたらには一つ、叶えたい願いがある。そしてそれはあたしにしかできない願いだってね。直感的にわかったのよ。動物の勘ってやつさ。あんたらにはわかっているはずさ。さあ、あたしにとびっきりの恩返しをさせてくれよ。あんたらの願いはなんだい」
おじいさんは考えました。叶えたい願い?そんなもの、わしらにはないはず…。いや、待てよ。一つだけあるじゃないか。わしらがどうしても叶えたかった、大きな願いが。そうじゃ、そうじゃよ。なんだ、答えなんて最初からあったんじゃないか。おばあさんがとなりで優しい笑みを見せる。おばあさんも同じ考えのようだ。鶴がうれしそうにおじいさんを見ている。ようやくおじいさんに恩返しができる。うれしくてたまらないといった様子だ。鶴がおじいさんの言葉を待つ。おじいさんはおばあさんと目を見合わせ、優しくほほえみあい、鶴に向かって言った。
「帰ってください」
鶴の恩返しは成就した。