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ゾディアック 10

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~ 68 ~

サロンを出て、エスカレーターを降りた所にカフェがあった。
窓際の片隅のテーブル席にデミが座って待っていた。
何処か 落ち着かない様子で 、窓の外を眺めていた。

「 デミ 、待った?」声を掛け、前の席に腰かけた。
「 あ、マリオンお疲れ様・・ 」デミは微笑んで応えたが、すぐ笑顔は消えた。
「 ごめんなさいね、突然呼び出して・・ 」

「 大丈夫よ、それより何かあったの?ユシュリが・・ 」
私は 母の夢やミツコに見えた幻視の事は言わなかった。
「 そうなの・・ ミツコさんから聞いた? 」デミはホッとしたような顔で私を見た。
「 詳しくは聞いてないけど、ユシュリに何かあったの? 」
「 ええ・・ 実は、ユシュリの会社で大きなリストラがあって・・ 」

ユシュリは外資系金融企業に勤めていた。それが一年前、海外の大手投資銀行の破綻を原因とする
同時不況が起こり、世界恐慌とも呼べる金融危機が世界中を襲っていた。
外資系といえば高給職として知られるが、リストラが多いことでも有名だ。

「 それで今ユシュリは? 」
「 タクシーの運転手を始めたんだけど・・ 子供の教育費もあるし、とても足りないのよ」
ユシュリの子供たちは私立の名門校に通っていた。
「 それで、マリオンからお父様にお願いしてもらえないかしら・・ 」デミは言った。

「 うん、それはもちろん協力するよ。でも・・生活は変えた方がいいかもね 」私は言った。
「 今の高級住宅より、空いてる実家に引っ越したら?私も近いし何か力になれるよ 」
「 ええ・・ そうよね 」デミは浮かない顔で応えた。

帰りの車の中で父に電話をした。出たのは、やはりミツコだった。
「 マリオンさん、先日はどうも、今日は何かご用?」
「 さっきデミに会ったんだけど、やはりユシュリが大変そうで・・ 実家が空いてるから引っ越しといでよ
て言ったの。私も近いから手助けしやすいし。親父に伝えてくれる?」
私が言うと、ミツコは少し戸惑った様子で
「 ええ・・ そうね、お父様が戻られたら伝えておくわ 」と答えた。

マリオン
ユシュリヲ タスケテ・・

その時、母の声が聞こえ、運転する暗い夜道に幻視が現れた。
薄桃色の撫子の細長を重ねた袿姿の女性が横たわっていた。
小袖から白い柔らかな手を差し伸べ、側に座るあこ衣を纏った
少女に何かを手渡した。
小さな手を開くと、それは 飾り紐の付いた綺麗な鈴だった。

チリーン・・ チリーン・・ 美しい音色がして
女性は、少女に優しく微笑むと 白い眩しい光に包まれて消えていった。
柔らかな白い手の感触だけが残っていた・・ 母だった。

次の瞬間、バターーンッ!激しい音と共に、幼い兄妹が暗い部屋に転がった。
その前に白い巫女装束の女性が立っていた。

ケガラワシイ ・・ ソナタラモコレマデジャ
ワラワガミョウダイニ ノボルマデノイノチゾ

夜叉のような形相をしたその女性は、転がされた子供らの父親の妾で
霊を呪文を唱え招き寄せては、その意中を語り、呪詛や占いを業とする
あずさ巫女と呼ばれた口寄せだった。
前世のミツコだった。

あこ衣姿の少女は、巫女の足元に転がった 小さな鈴を拾おうとして手を伸ばしたが
巫女に手を踏みつけられ、巫女は鈴を拾ってその場を立ち去って行った。

カカサマ ノスズガ

兄は泣きじゃくる少女を庇って慰めた。

バッ!激しいフラッシュバックと共に過去世のビジョンは消え、
ライトに照らされた 暗い夜道が再び現れた。

「 ええ・・ そうね、お父様が戻られたら伝えておくわ 」
先程のミツコの声が聞こえ 、同じ時間を繰り返していた。
「 よろしく・・ 」私は電話を切った。

鳩尾に暗黒の炎が燃え広がっていくのを感じた。

クスクス・・
アンタノ カルマヲ ミセテヨ

炎の中で金髪の少女が笑っていた。


~ 69 ~

「 ミツコが・・ 私とユシュリの千年前のカルマ
親族は ある意味逃れられないものな 」

ドックン‥
胸に手を当てると、自分の心臓の音を感じた。

ドックン‥ ドックン・・
ドックン‥ ドックン・・ ドックン・・

鼓動が、規則正しく脈打っていた。
何百回、何千回、何万回・・ 
魂の記憶は、転生を超えて 私達の中に眠る統合を目指す。
「 ここから・・ 」

車を走らせる暗い夜道の前方に ポウッ・・と白く浮かび上がる1本の木が見えた。
嵐にあっても雪が降っても 決して散らない 
毎年9月の終わりから翌年4月まで、8か月間も咲き続ける不思議な桜だった。

サ・・クラ とは “魂が座す” を意味する言霊
インカネーショナルスター 魂の座
第二、三チャクラは 授容の愛と自己アイデンティティの確立を促す。


コノタネガ マガタネナラバ ケッシテサクマイ
コノタネガ マサタネナラバ エイエンニサクデショウ
ソウイッテ ヒノウブヤヘ ハイッテイキマシタ

「 火の産屋・・ 輪廻の業火の中へ・・ 」

通りすがりに桜を見ると 一瞬、木の上に人影が見えた気がした。


ボクハ キミノヒトミニ タイヨウヲミタ
ソノカガヤキハ イマデモアルヨ


サラクエル・・ 私のツインソウル
古代ミスラトの時代、最初の転生からずっと共にいる。


ユシュリの引っ越しの日が決まった。
朝から実家の片付けをしていると、ミツコと親父がやって来た。
母が亡くなってからは 実家は空き家になり、親父は故郷に戻り代議士をやっていた。

「 マリオン、ユシュリはまだか・・? 」
「 ああ親父、ユシュリは今こっちに向かってるって、さっき連絡があったよ。
今日は・・ありがとう親父 」私が言うと

「 ・・こんな事になって・・ わしは認めとらん 」親父は言った。
「 ユシュリのせいじゃないだろ。時勢の流れと・・運が悪かったのさ 」
あんたの連れて来た霊媒師に祟られて・・ 私は心の中で呟いた。

ミツコは黙って2階へ上がって行った。
ユシュリの部屋へ行くと、ミツコが部屋を片付けていた。
「 ミツコさん、今日はわざわざありがとう・・ 」私は声をかけた。
「 ・・ああ、マリオンさん、本当にユシュリさん大変だったわね
私も出来る事はするわ。家族ですものね 」ミツコは笑った。

バッ!その瞬間ミツコの肩に青いスパークが起こり
白い巫女装束の女が、笑いながら 少女の私に声をかけた。

「 嬢様、御母上はいつも嬢様を見守ってらっしゃいますぞ 」
「 かか様が? 」
「 はい、このあずさ巫女の私目が 御母上の霊を宿らせましょうぞ
嬢様は・・ 良い瞳をしてらっしゃる。見えぬ者が見えまするのか? 」

巫女は私の目に 手を伸ばした・・ その時、兄のユシュリがやって来て
少女の手を引き、巫女から離した。
「 我等に近寄るでない! 」ユシュリは巫女に言った。

巫女はその場に傅き 俯いて呟いた。


オノレ
オマエナンゾニ・・ ナニモ ワタサヌ
オマエナンゾ・・ ケシサッテクレル

 
3年前の父の議員選挙の時、選挙カーに乗り込んだ瞬間のビジョンが蘇った。
前の助手席にユシュリが座り、後部座席には私とミツコが乗り込んだ
作品名:ゾディアック 10 作家名:sakura