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アナザーワールドへようこそっ!  第二章  【026】

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  【026】



 アイリ様からそうこう説明(レクチャー)を受けていると、チャイムが鳴った。


「あっ! HR(ホームルーム)の鐘だ。急ご、急ご……」

 アイリは、俺とシーナの手を引っ張って、そのままの勢いで教室へとなだれ込んだ。

「セーフッ! ふー間に合ったー……」

 教室にはまだ担任が来ていない様子。どうやらギリギリ間に合ったようだ。

 それにしても……。


「な、何よ、この空気……」


 最初、すぐに反応したのは、敏感なお年頃のシーナだった。


「……アイリ、お前、俺たちが来る前に、何を言ったんだ?」


 教室に入る前は、まあ、入学式直後でまだ慣れない雰囲気&やっとの思いで入学できた王立中央魔法アカデミー(セントラル)ということもあったのか、ザワザワと皆、思い思いに和気藹々(わきあいあい)とした雰囲気で騒いでいる感じだった。

 しかし、俺たち三人が教室に入ると…………一変、あれだけ騒いでいた喧騒は一瞬で消えた。

 そして、皆の視線がこれでもかというほど突き刺さる。

 どういう思いで見つめられているのかはよくわからなかった…………というより、そんなのに気づくほど、俺はそこまで度胸は据わっていない。俺たちは、教室に入ってその空気で迎え入れられたため、どう立ち回ればいいのか判断できないでいた。

 すると……そんな空気を切り裂くかのように声を出した者がいた。


「やっと来ましたわねっ! まったく……HR(ホームルーム)ギリギリですわよっ!」


 フレンダ・ミラージュだ。


 その一言で、他の生徒も『ハッ!』と我に返ったようで、だいぶ、空気がマシになった。

 正直、とてもありがたかった。

「あ、フレンダ、ありがとう! 気遣ってくれて!」

 アイリは、満面の笑顔で直(ちょく)に感謝の意を伝える。

「な……そ、そんなこと、無いですわ。あ、あまり、調子に乗らないでっ!」

 フレンダ、アイリの『どストレートな一言』に、あわてて否定する。

 そりゃ、そうだ。

 アイリ……お前は、もう少し、気を遣いなさい。


「と、ところでシーナ様…………さっき言っていた『敬称は無くすという命令』ですが、ここにいる皆に伝えましたが、本当によかったのですか?」

 と、フレンダは気を取り直してシーナにそのことについて確認を取る。

「はい、もちろん。わたしたちは『特別招待生』という扱いで入学しましたが、皆さんと何も変わらない同じ一年生です。なので、『敬称を無くす』のは当たり前です。だから、ぜひ、気軽に『シーナ』と……あと、お兄ちゃんのことも『ハヤト』とお呼びくださいっ!」

 シーナは、フレンダに即答した。

 すると……、


「「「おおーーーーっ!」」」


 いきなり、クラスの生徒ほぼ全員が感嘆の声を上げた。

「えっ……?! な、何……?」

 たじろく、シーナ。

 では、外野の声をお聞きください。


『な、なんて……なんて良い人なんだーーーっ!』

『そうか、天使はそこにいたのか……』

『シーナ様っ! シーナ様ーーーーっ!』

『むしろ、俺は『シーナ様』と呼ばせていただくっ! 絶対にだっ!(キリッ)』

『はい、これより『シーナ様@ファンクラブ』がここに誕生しましたー、会員ご希望の方はそこに一列にお並びください』

『はいっ!』

『はいっ!』

『おい、運営、何やってるっ! むしろ、遅いくらいだぞっ! 整理券くらい配布しろっ!』


 気づくと、皆、シーナのこの一言で、緊張が一気に緩んだようだった…………というより、

「おいおい、今、何つった? 『シーナ様@ファンクラブ』? てか、何だよ、『@』って……」

 俺は、ただただシーナの横でその光景を見て、唖然としていた。

 残念な一部の者たち(ほぼ男子全員)は、どうやら緊張が緩み過ぎてか暴走しているようであったが、しかし、そのおかげで、教室の空気は完全に『一変』し、俺たちは、まあ一応、好意的に受け入れられたようだった。

 きっかけは、フレンダが声を掛けてくれたことで始まり、最後は『思春期男子の暴走』で幕を閉じるといった、最後が若干残念な結果だったが、まあ良しとしよう。


「コ、コホン…………で、では、改めて、シーナ、ハヤト。これから一年間よろしくお願いしますわ。わたくしはリサ・クイーン・セントリア女王陛下の下で『側近魔法士(ボディーガード)』となるためにこの学校(アカデミー)に来ました。ですので、すぐにでも『特別招待生』と認められ、あなた方と同じ位置になりますから……そのつもりでっ!」


 と、フレンダは入学式に出会ったときのような調子に戻ってそう宣言した。

 とは言え…………入学式の時とは比べ物にならないほど、柔らかくなっていたが。

 これはアイリのおかげだろうな。

 俺は、アイリに感謝した。

 そのとき……、


「ふ、ふんっ! フレンダ様はお前たちみたいな『お飾り』のような『特別招待生』とは違うんだっ! だから、お前ら何かには絶対、ぜーったい負けないんだからっ!」


 と、フレンダの横から『ちっこい何か』が飛び出てきた。

「コ、コラッ! ベルッ! あなたは黙ってなさいっ!」
「だ、だって~、こいつらよりお姉さまが……『凍結天女(フリーズ・エンジェル)』のほうが絶対強いんですからっ! だから黙りませんっ!」

 よく見ると、この『ベル』という子……入学式のときに最初にアイリに声をかけたフレンダの取り巻きで、あの、ナマイキな口をした女の子だ。

「あっ! あんたは入学式のときの…………あんたもAクラスだったの?」

 アイリがその『ベル』という子に気づいて声をかけた。

「そうよっ! 悪い?」
「い、いや、別に悪くは……ないけど」
「あっ! そう言えば、お前……確か、アイリとか言ったな。お前、ちょっとフレンダ様に馴れ馴れしいんだよっ!」
「何よ、いいじゃない? どうせ、同じクラスの仲間なんだから」
「何が仲間よ……そうやってお姉さまと仲良くなって何が目的? まったく、油断も隙もない」
「あら? わたしは『べル』……だっけ? あなたともお友達になるつもりよ?」
「は、はあ……? 入学式であれだけ啖呵切っといて……な、何でそうなるんだよっ?!」

 これには、このベルという子もたじろいだ。

「ふふ……いいじゃない、過ぎたことでしょ? これからよろしくね、ベル」
「な……な……何、この子? い、意味わかんないんだけどっ! ふ、ふんっ! わ、わたしはそんなつもりはないからっ! あと、お姉さまにも近づかないでっ!」

 と、ベルは、さっきアイリに責められたフレンダと同じように虚を衝かれ、慌ててこの場から逃げ出し、教室から出ようとした。

 すると、ベルは教室の入口で誰かとぶつかる。

「痛ったーい。もう、何よっ! 入口でボサッと突っ立てんじゃないわ…………よ?」

 ベルが見上げたその先には…………なんと、あの……、

『メガネツン女史』が、ボサッとどころか、凛然と突っ立っていた。


「貴様……誰に向かって、口を聞いておるかーーーっ!」