ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく )
OL斬殺事件、その重要参考人として山端郁夫(やまはしいくお)の取り調べが始まった。
「あなたは一流企業の重役候補。それでも部下の、いや愛人の里村綾乃(さとむらあやの)を刺し殺してしまった。邪魔になったのですか?」
慇懃無礼に問い質していた刑事、今度は「会社は首なんだよ。だから、全部吐(と)露(ろ)せ!」と頭に血を上らせ、椅子を蹴り上げた。
「綾乃との縁を切るつもりはありませんでした。だから私は殺害してません」と山端は声を震わせた。
「ほう、否認するのか。だったら奥さんが、お前たちの三角関係の縺(もつ)れで、刺したんだな」と取調官が焦点を変えてくる。これに「妻の美月(みつき)もやってません」と涙声で訴えると、刑事がニヤリと笑う。
「そう仰るなら、あったことを全部喋ってもらわないとね、ご夫婦お二人とも殺人罪で起訴することに」と目一杯脅してきた。
これで山端の命運は尽きた。フーと息を吐き、低い声で話し始めるのだった。
作品名:ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく ) 作家名:鮎風 遊