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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 しかし、なぜ?

 七年前、市職員の圭が中心となり、町おこしのため管弦楽団を結成させた。その後一流にするため頑張ってきた。その結果が今宵の催しだ。
 されども心奥(しんおう)にしまった思いがある。
 ちょうど五年前のことだ、幼子、翼(つばさ)がこの噴水の近くで倒れた。

「お父さん、お父さん、魔王が僕をつかんでくるよ」
 救急車の中で翼が訴えた。だが、これに応えられず、腕の中で冷たくなった。
 その日から圭は悲嘆の淵を彷徨うこととなる。そんなある日、友人が音楽鑑賞会に誘ってくれた。

 ♪ Siehst, Vater du den Erlkonig nicht? (お父さんには魔王が見えないの?)
 圭が耳にした歌詞、それはまさに可愛い息子からの阿鼻叫喚だった。
 そして心に誓う。もし魔王があの森に棲んでいるならば、いつの日か歌曲『魔王』を轟かせ、我が子の復讐をしよう、と。

 ♪ Erlkonig hat mir ein Leids getan! (魔王が僕を痛めつけてくるよ!)

 今、特設会場から、助けを求める歌声が圭の心胆に届いてくる。もう理性を抑えられない。圭は奥深い闇に向かって、「魔王、ここへ現れよ。殺してやる!」と声を張り上げた。
 その瞬間だった。鬱蒼とした木々をすり抜け、鏃(やじり)をキラリと光らせた矢が一直線に、圭の心臓を貫いた。