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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 Time flies very fast !
 あっと言う間に三〇年の時は流れた。その過程で同僚という縁は形を変え、辣腕(らつわん)勤め人の凛太郎と、いつも女性パワー全開のラリは結婚した。そして凛太郎は順風満帆、役員昇進の一歩手前までこぎ着けた。またラリは退社し、アパレル会社を起業し、最近は輝くミセスとしてファション雑誌の表紙を飾っている。

 一方光輝といえば、相変わらずの癒やし系。その鈍感さからか凛太郎の部下となっても別段苦にもせず、まるで春風のようにほんわかと生きてきた。
 そんな光輝を連れ合いとして手なずけてきたのは綾音。友人ラリの華々しい活躍とは別に、静かな策略家の綾音は三年前に社長秘書に抜擢され、今は権力を背に陰で会社組織を操り始めている。

 幾星霜を重ね、いよいよ四人に何かが起こりそうだ。最近こう予感する神は身を乗り出し、下界の様子をじっと窺う。そんなある日のことだった、新聞紙面に、まことにおぞましい見出しが躍った。
『上司と部下、刺し違える!』と。

 その内容を要約すると……。
 某一流企業の役員候補、凛太郎とその部下の光輝は、凛太郎のマンションの一室で、凛太郎はナイフを使い、光輝は包丁で、互いを刺し違え、斬殺し合って死亡した。
 おどろおどろしい真っ赤な血の海、二つの死体のそばで呆然と立っていたのは、出来事すべてを目撃した凛太郎の妻、すなわち今を時めくラリだった。

 なぜこんな事態に?
 風説によると、ラリはプードルのように手なずけた光輝と不倫関係にあった。その現場へと踏み込んだ夫の凛太郎は、部下の光輝に妻を寝取られたと逆上し、男二人は喧嘩となった。その果てに、殺し合う修羅場と化したのだとか。
 そして現在、夫と愛人を同時に失ったラリに、多くの女性から「この災いを乗り越えて!」とエールが送られている。