ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく )
30分後、百目鬼は報告を受ける。37階の住人は演出家の岸有樹でした、と。
これはまことに重要情報だ。早速二人は訪ねてみる。
岸は在宅で、室内へと招き入れてくれた。蘭子の死にショックを受けた様子だったが、それでも快く任意の事情聴取に応じてくれた。
岸の弁によると、昨夜3時まで在宅していた。その後友人から誘いの電話があり、深夜パブへと出掛けた。そして朝7時に帰宅した、と。
この裏を取った結果、蘭子が舞い降りた午前6時、岸は外出中でアリバイは成立した。
また室内を検分するが、実にシンプルな住まいだった。
壁に1.9メートルx1.0メートル、多分120号であろう大きな風景画が飾られてあるだけで、あとはソファにテーブル、他に一応の電化製品、他に目に付くものとしてはカゴに入れられたフランスパン程度のもの。
またベランダには金属製物干し竿とホースが二本、それ以外に25リットルのバケツ2個だった。さらに防犯カメラには異常な物を運んだ形跡は映ってなく、以上からして、蘭子の飛び降り自殺と岸有樹との繋がりは見出せなかった。
作品名:ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく ) 作家名:鮎風 遊