ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく )
晩秋の晴れた早朝、円山川(まるやまがわ)に霧が立つ。それは但馬(たじま)の山あいを覆い尽くし、藍白色の雲海となる。
竹田城はそのベールを天へと突き破り、宙に浮かぶ。まさに天空の城だ。
そして、その風景を眺望できるポイントが城と対峙する立雲峡(りつうんきょう)だ。そこからはまさに幻想的な情景を目にすることができる。
京田一郎(きょうだいちろう)は崖の上から望遠レンズで、これから現出する夢幻の窮(きわ)まりを撮ろうとカメラを構えてる。
そんな時だった。雲海の下からブーと音が聞こえてきた。そして、あっと言う間もなく、最近市販され、人気を博してる小型無人航空機・ドローンが現れた。
きっと有視界飛行機能を使った遠隔操作なのだろう、まるで鳶(とび)のように面前で輪を描く。
この最新機を使って、今までとは異なったアングルで天空の城を撮影する。たとえそれが理由だとしても、まったく迷惑な話しだ。
「消え失せろ!」
一郎が手を振り上げた。その瞬間だった。
「あっ!」
身体が宙に浮き、一郎は崖下へと……。岩に頭を強打し、即死した。
作品名:ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく ) 作家名:鮎風 遊