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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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〈強盗殺人事件〉
 会社部長・笠井祐司、刺し殺される!

 翌々日、世間はこのニュースで騒然となった。
 第一発見者は笠井の妻、愛子。午前10時頃に夫の単身赴任のマンションを訪ねたところ室内は荒らされ、和室で刺殺されていたという。
 死亡推定時刻は午前4時。その前夜、笠井からストーカー行為を受けていたという悦子が話し合いに訪れた。

 午後8時にフィアンセの賢が迎えに来て、マンションをあとにした。
 愛子、悦子、賢の三人は午前4時には現場にいず、アリバイが成立している。

「ちょっと奇妙だわ」
 現場検証から戻って来た芹凛こと芹川凛子刑事が、何か言いたげに百目鬼刑事のデスクの前に立つ。何だよと百目鬼が顔を突き出すと、「死因は刺殺ではなく、睡眠薬を服用した後の……、ガス中毒死、だが臭いが残ってないわ」と芹凛が首を傾げる。

 こんな部下の疑問に、「台所に、空の二酸化炭素の消火器が二本転がってだろうが」と百目鬼が推理の呼び水をすると、芹凛はハッと気付く。そして恥じらいもなく大声で、「それって、無臭の炭酸ガスってことですよね」と叫び、資料室へと消えて行った。