ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく )
賢(まさる)は入社以来馬車馬のように働いてきた。そのため女性と知り合うチャンスがなかった。その上、安アパートでの暮らしは花も実もあるとは言い難く、10年も続ければ嫌になってくるものだ。
味気ない独身生活からの脱出、そろそろ身を固めたい。賢は思い切ってパートナー紹介倶楽部なるものに入会した。
思慮深くて、しかし、生きて行くことに大胆な女性。
婚活サイトの希望欄にこう記入した。それにしても大胆とは、賢が現状を打破したいと願う余りのことだろう。その思いが伝わったかどうかはわからないが、あとは自己責任でご交際をお願いしますと、悦子という女性を紹介してきた。
もちろん心を弾ませ、悦子に会った。色白でエレガント、いつも遠くを見つめ、それに飽きた時には長い黒髪をさらりとかき上げる。そんな仕草の悦子に賢は一目惚れした。
これが縁というものだろうか、悦子の方も誠実そうな賢を気に入ったようだ。そして結婚を前提とした付き合いが始まった。
作品名:ミステリー短編集 百目鬼 学( どうめき がく ) 作家名:鮎風 遊