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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 ここまでを振り返っていた百目鬼、やにわに「増水で岩は水面下。岩で頭は打たないぞ。だから、これは殺人事件だ」と口火を切った。これに芹凛は「謎は解けたわ」と手を上げた。
 さっ、その推理を、と百目鬼が目配せすると、芹凛は大きく深呼吸し、ゆっくりと己の思う所を述べ始める。

 すべては花坂の妻の陰謀。
 まず夫婦の良縁を取り戻そうと夫を誘い、合縁奇縁荘に二人で泊まった。もちろん妻は特別料金で予約していた。
 すなわち――殺人付き宿泊プラン:推定一泊200万円。

 花坂の自宅の鍵を預かった女将、その夜、花坂の家へと出向き、固定電話より宿に電話した。直接花坂と会話せずとも通話記録だけは残る。これにより花坂の妻は在宅していたというアリバイが工作された。
 そして翌朝、激しい雨が降る中、宿の主人は花坂夫妻を天魔堂へと案内した。そこで念じて、まるで花坂の妻と宿の主人に縁切り婆神が取り憑いたかのように、その帰り道、この二人は花坂を鶯橋の上で撲殺した。そして川へと投げ落とした。

 以上が七つ雨殺人事件です、と締め括った芹凛に、ブラボーと声が飛ぶ。だが芹凛は、凶器が何なのか、自信がない。
 ここで百目鬼はニッと笑い、「凍らせた二本のペットボトルだよ。発見時には普通のお茶に戻ってたがね、チャンチャン」と軽い。これに反し、いつも強気の芹凛が殺人プラン付き温泉宿の存在にどことなく脅えてる。

 こんなちょっと可愛い相棒に、百目鬼は活を入れるのだった。
「仮説は今のところ事実ではない。さっ芹凛、ひるまず、一つ一つの真実を明かしに行くぞ!」