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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 山峡の地に七つ雨温泉がある。
 名の由来は一年に七回激しい雨が降るからと言われてる。その時、近くの鶯川(うぐいすがわ)は増水し、俗界の因縁を洗うがごとく流れる。
 そして橋を渡ると天魔堂がある。

 宇宙のすべての縁(えにし)を仕切る縁生魔王尊(えんしょうまおうそん)の立像があり、左右には縁戻(えんもど)し爺神(じじいしん)と縁切り婆神(ばばあしん)を従えてる。
 この世の腐れ縁、人は時としてその扱いに困る。
 篠突く雨の折、天魔堂に参れ。そして念ぜよ。
 縁を戻すか切るか、魔王尊が爺婆神(じじばばしん)に命じ、うまく采配してくれるであろう。

「一体、これ、なんなの?」
 芹凛こと芹川凛子刑事は、七つ雨温泉に一軒しかない温泉宿、合縁奇縁荘の女将からもらった観光案内を読み直し、思わずのけ反った。捜査一課の百目鬼学も「奇々怪々だなあ」と首を傾げる。こんな上司の反応を見て、芹凛は「花坂祐介(はなさかゆうすけ)は事故ではなく、きっと事件だわ」と言い切り、デスクに頬杖を付いた。