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ミステリー短編集  百目鬼 学( どうめき がく )

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 こんな初動捜査から始まった殺人事件、マスコミはすぐさま好奇心一杯に報じた。

『福神一郎氏、金属バットで撲殺され、川に捨てられる』
 名は体を表す通り、氏は日本で10傑に入る資産家。
 またいくつもの賞を取った写真家でもある。だが最近、その優秀作品の背後にゴースト・カメラマンがいるとも噂されていた。

 死亡推定は6月14日の早朝。そして犯行現場はどこか?
 捜査は川上へと。
 結果、隠れ村へと掛かる鶯橋の袂にある五つみ地蔵、その後方に隠されてあった金属バットを女性捜査員が発見。

 雨でほとんどは洗い流されていたが、現代の鑑識で、欄干とこのバットに氏の血痕が確認された。この事実により、犯行現場は鶯橋上、凶器は金属バットと断定された。
 すなわち福神一郎氏は6月14日の朝に鶯橋上で殺害され、川へと遺棄された。
 そして遺体は川下へと流れ、川岸にある雑木に引っ掛かかり、翌日の6月15日、夕刻に川の状況をチェックしに来た市職員によって発見された。

 されども6月14日の鶯橋からの犯人の足取りはまったく不明。
 さて、逮捕はいつとなるか?

 百目鬼と芹凛、五つみ地蔵まで辿り着き、金属バットまで発見した。
 だが署に戻り、一夜が明け、6月16日にこの記事を読んだご両人、唇を噛み締める。
 なぜならどことなくしっくり来ないのだ。百目鬼は「死亡推定によると……、14日の朝に」と腕を組み、芹凛は「橋の上で」と目を虚ろにするだけだった。

 このようなスッキリしない状態はその日だけで終わらず、そのままで1ヶ月の時が流れた。
 そしてある日の昼下がり、芹凛がドカドカと百目鬼のデスクへと飛び込んで来る。

「これは一郎がよく投稿していたカメラ誌です。ここに今月の優秀作品が載ってます!」
 芹凛が突き付けたページには、橋の上に女が立ち、その先に落下して行く男が写ってる。その写真には『雨に落ちる』と題名表記されていた。

「おいおい、これは明らかに鶯橋だぞ。それに女は一郎の妻の可奈じゃないか、まさに撲殺後の落下の瞬間てことだな。それにしても死亡推定の6月14日が犯行日、その日可奈には鶯橋にいないアリバイがあったはずだぞ」と百目鬼刑事が首をひねる。

 すると芹凛が指を差し、「ここに男落下の撮影日は6月15日の記述が。すなわち14日の犯行は鶯橋とは異なる場所で行われた。そして6月15日に、可奈が欄干に血糊を付け、凶器のバットを地蔵の後ろに置き、死体を投げ捨てた。すべてを1日遅らせ、6月14日の犯行現場を鶯橋上に偽装したのです」と頬を紅潮させる。

 しかも芹凛はそれだけでは終わらなかった。欄外の文字に指を置き、声を震わせた。
「撮影者は――福神次郎です」と。

 百目鬼はまさにその名前を凝視した。
「確か次郎は一郎の腹違いの弟で、隠れ村の住人だったな。この撮影の腕前からして、次郎が一郎のゴーストだったってことか」と今までの捜査のモヤモヤが抜け始める。
 そして2人ともそれを完全消滅させるために沈思黙考に没入する。