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コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ

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シールを集めるともれなく…。






 リラックマのキャンペーンが始まった。パンやサンドイッチ、スイーツに張ってあるコリラックマシールを台紙に貼って、コリラックマのスープマグカップをもらおう!…って言うキャンペーン。それを見て俺の脳裏に思い浮かんだのは、ムキムキさんの顔だった。

「…好きそうだけど、本人は否定しそうだな」

何となくだがそう思う。そう思ってたら、本日、うさぎさんと本田さんがご来店された。

「なあ、このシール何だ?」

会計の際、スイーツに貼ってあるコリラックマのシールを指差し、うさぎさんが訊いて来る。
「このシールを台紙に貼って頂いて、いっっぱいになったらこの見本と同じスープマグカップが貰えるキャンペーンのシールです」
「タダでくれんの?」
「タダ、ではないですよ。ギルベルト君。商品を買わないとシールはついてきませんから」
「…うーん?良く解んねぇけど、シールを集めたらこのマグが貰えるんだな?」
「そうです。良かったら、集めてください。これ、台紙になります」
「ダンケ!…でも、こっちにいる間に集められるかな…。30枚集めるんだろ?」
台紙を受け取り、うさぎさんはシールを貼る欄を見て、眉を寄せた。
「協力しますよ」
本田さんがそう言うと、うさぎさんは嬉しそうに笑った。それに本田さんと俺が和んだのは言うまでもない。うさぎさんは黙ってれば冷たい感じのするひとだが、笑ったときの人懐っこい顔は本当に子どもみたいで可愛い。本田さんのうさぎさんを見る目は何ていうか、何でか孫を見るお爺ちゃんみたいに見えるときがある。

「よし!頑張って集めるぜ!!」

うさぎさんはそれから暫く、毎日、ウチの店に通ってくれて、何枚集まったと俺に報告しては嬉しそうに帰っていったのだが、ぱたりと来なくなってしまった。気にしていると本田さんが今日、店にやって来たので、お客さんのことを聞くのは失礼かもと思ったのだが、気になったので思い切って聞いてみた。
「あの、」
「はい。なんですか?」
「お客様のご友人の銀髪のお兄さん、最近、いらっしゃらないんですが、何かあったんんでしょうか?」
最後の方は語尾がちいさくなってしまったと思う。本田さんは俺を見つめにっこり笑った。
「仕事が一段落したので、帰国されたんです。今週末にはまた戻って来るって、言ってましたよ」
「…そう、…なんですか。…良かった」
事故とか病気とかなんとかじゃなくて、ほっとした。…何かそんなものとは無縁なひとに見えるけど、毎日会っていたのにぱたりと来なくなるのは少し、寂しい。
「心配しなくても大丈夫ですよ。撃たれたって、空から槍が降ってきたって死にそうにないひとですから」

「…ですね。そんな感じがします」

本田さんはシールのいっぱい付いた日頃は購入していかないサンドイッチとジャンプを買って帰って行った。…益々、謎が深まった。うさぎさんって、何してるひとなんだろう?






そして、今週末。本田さんの言葉通り、二週間ぶりにうさぎさんはウチにご来店になった。そして、俺を見るなり駆け寄ってきた。

「集まったぜ!」

きれいにコリラックマの顔が並んだ台紙を自慢げに見せてくる。ウチで飼ってる猫みたいだ。狩ってきた獲物をウチの猫はわざわざ見せに来て、褒めろ!と自慢げな顔をするのだが、それにとても良く似ている。
「頑張りましたね」
俺が言うとうさぎさんは、
「菊がすげー協力してくれた!持つべきものはトモダチだよな!!」
と、嬉しそうに笑った。…レジに入り、台紙を確認し、バックヤードから景品を取ってくる。赤い箱を見ると感極まったような顔でじっと箱を見つめる。それを袋にいれ、うさぎさんに差し出した。
「どうぞ」
「ありがと!」
満面の笑みを浮かべ、今にも走り出さんばかりの勢いでるんるんと店を出ようとするうさぎさんを俺は呼び止めた。
「待ってください!」
「ん?」
俺の声にぴたりと足を止めたうさぎさんが俺を振り返った。
「これ、俺が集めたシールで引き換えてもらったものなんですけど、良かったら差し上げます」
シールを集める気もなければ、マグも欲しくはなかったのだが、何となく感化されてちまちま買ったものに付いてたシールを貼っていたら台紙いっぱいになってしまっていて、今日、店長に引き換えてもらったのだ。そんな日にたまたま、うさぎさんが来るから…、あー、…心臓、ウルせぇよ!!
「…いいのか?」
「は、はい、よ、よ、良かったら、ですけど…」
思い切りすぎて出すぎたことをしたんじゃないかと、頬が耳が熱い。心臓がバクバクする。
「…強盗から助けてもらったお礼です。こんなもので申し訳ないんですけど…」
ヤベー、好きな子に告白したときより緊張してる!!…ぐはぁァァッ…。

「…スゲー、嬉しい!ありがとな!!」

ガシッといきなり抱き締められ、お湯が沸騰したような音が俺からした。ハグされてると理解するのに数秒掛かった。…うさぎさんは見た目よりもがっしりしてて、いい匂いがした。…って言うか、スキンシップに慣れてない俺には目が回りそうだった。…外人さんのハグって、何か色々、スゲーわ。








そんなことがあってから、また一週間後…、うさぎさんはムキムキさんと一緒にご来店された。うさぎさんとムキムキさんは真っ直ぐに俺のところにやってきた。威圧感剥き出しのムキムキさんに何か無礼なことでもしてしまったかと、圧されて半歩下がるとずいっといい匂いのする箱を突き出された。
「?」
「先日は、そのマグを有難う。兄から訊いて、これはつまらないものなのだが、良かったら食べて欲しい」
突き出されたそれを恐る恐る受け取れば、頬を僅かに染めたムキムキさんが俺にそう言った。
「ヴェストのクーヘン、滅茶苦茶、美味いんだぜ!」
うさぎさんが言う。
「…わ、わざわざ、ありがとうございます」
これは食い物なのか。何かとても美味しそうな匂いがする。うさぎさんが言うのだからきっと美味しいのだろう。
「…いや。口に合えばいいんだが、」
ムキムキさんはほっとしたようにそう言い、表情を和らげた。それに俺も笑みを返す。
「いいえ。わざわざ、こちらこそ有難うございます。家族で分けて食べますね」
「そうしてくれ。…では、また来る」
「はい。有難うございました」

コリラックマのマグカップが滅茶苦茶美味しいリンツァートルテ(ネットで調べた。アーモンドの粉末とシナモンやナツメグ等の香辛料を入れた生地の間に、ラズベリージャムをはさんだ丸いケーキ)になったのだった。…ってか、やっぱり、ムキムキさん、リラックマ好きなのか。…トルテを頬張りながら、ニヨらずにはいられない俺だった。