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コンビニ店員の俺と本田さんと各国の人々。1~21まとめ

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トルテとじいちゃんとピアニスト。





 ウチのじいちゃんは珍しい職種に従事していて、親父と兄貴もその仕事をしている。…俺はと言うと、その仕事に興味はあるのだが、誰に似たのか半端なく手先が不器用な上に音感ゼロと来た。音感ゼロだが、小さい頃から、ばあちゃんがピアノの先生をやってたこともあって、弾けはしないが、聴くのは好き、じいちゃんの仕事を見るのも好きで小さい頃はじいちゃんにくっついてあっちこっち行ったりした。小さな学校の音楽室から、お金持ちのお嬢様のピアノ部屋、はたまた大きなコンサートホール…。ウチのじいちゃんはピアノの調律師なのだ。今年で九十になるが、まだ矍鑠としている。お得意様に頼まれれば、遠方でもひとり鞄を手にして出かけることもあるぐらいに元気でとても白寿には見えない。そんなじいちゃんのお得意様の殆どは高齢を理由に親父が引き継いだのだが、じいちゃんじゃなければ駄目だと言う海外の高名なピアニストが来日した際のコンサートホールのピアノの調律は必ずじいちゃんに未だに依頼がくる。じいちゃんは「耳も遠くなってきたし、そろそろ引退させて欲しいんだがねぇ」と満更でもない様子で出かけていくのだ。俺の自慢のじいちゃんだ。そのじいちゃんが俺がムキムキさんから貰ってきたトルテを皆で食べているときに、

「懐かしいな。ルートさんの作ったトルテと同じ味がする」

と、不思議そうな顔をして言ったのだ。
「ルートさんって、誰?」
「オーストリアに修行に言ってるときに知り合ったドイツ人の青年だ。そのひとが作ったトルテと同じ味がする」
「へぇ。…このトルテ、バイト先に来るドイツのひとから貰ったんだよ」
「…そうか。なら、似てるかも知れないな。…でも、この味は本当にあのひとの作ったトルテと同じ味がする」
そう言いながら、トルテの半分はじいちゃんが食べてしまった。その話をムキムキさんとうさぎさんが来店したので、お礼がてら伝えると、うさぎさんとムキムキさんは顔を合わせ、

「…失礼だが、君のお爺さんは今、いくつになるんだ?ドイツにいたことがあるか?」

と、ムキムキさんが聞いてきた。
「今年で九十になります。オーストリアにピアノの調律の修行に行って、そこで会ったオーストリア人のピアニストに気に入られて、欧州をあっちこっち連れまわされたって言ってました。そのピアニストが政治的な理由からベルリンに居を移したんで、必然的に自分もそこに留まることになったって、…ベルリンには結構長い期間居たそうです。戦況が悪化する直前まで居たって」
それにムキムキさんとうさぎさんがまた顔を合わせた。
「…お前のじいちゃんの名前さ、キュウゾー・アキヤマって名前か?」
「秋山はじいちゃんの旧姓です。何で、知ってるんですか?」
じいちゃんは戦後、欧州から帰って来て旧家のいいとこのお嬢さんだったばあちゃんに一目惚れされ、婿養子に入ったので姓は変わっていた。
「…苗字変わってたのか、じゃあ、探せねぇはずだぜ」
「そうだな。ローデリヒがずっとキュゾーのことは気に掛けていたから、これを知ったら喜ぶだろう」
「だな。アイツ、ピアノはやっぱりキュゾーの調律じゃないと気に入った音にならねぇとか言ってたしなぁ」
うさぎさんとムキムキさんは何やら納得したように頷きあって、俺を見た。
「…あの、ウチのじいちゃんが何か?」
「いや、お前の祖父はどうやら俺たちの知り合いのようだ。祖父にローデリヒ、ギルベルトとルートヴィッヒの兄弟のことを覚えているか訊いてもらえないか?」
「…はい。いいですよ」
なんの事だかさっぱりだったが、ふたつ返事で俺はムキムキさんの伝言を引き受け、連絡先だと個人的なメールアドレスと携帯の番号を書いたカードをもらった。



 重大なことを引き受けてしまったような気がして、バイトを終えて帰宅し、早朝の散歩に出て来たじいちゃんを捕まえ、散歩に付き合いながらムキムキさんの言葉を伝えた。
「じいちゃん、ローデリヒ、ギルベルトとルートヴィッヒの兄弟のことを知ってる?」
「知っておるとも。良く飯を食わせてもらったし、ローデさんのピアノの調律は私がしてたんだ。屋敷には良く出入りさせてもらったよ。ギルさんが良く、ローデさんのピアノに合わせて個性的な味のあるフルートを吹いていたが。ギルさんとローデさんは顔をあわせれば喧嘩ばかりしていたが、そのときだけは静かだったな」
じいちゃんが目を細めてそう言う。それに、アレ?っと俺は首を傾けた。…確か、うさぎさんの名前って「ギルベルト」だった。ムキムキさんは「ルートヴィッヒ」…って?…アレ?
「…知り合いなんだ?」
「知り合いと言うか、命の恩人だ。彼らが脱出させてくれなければ、私はここにはいなかっただろうしね」
「…脱出って?」
「あの頃は大戦も末期でな。空襲も酷く、東側からはソ連、西側からは連合とドイツは包囲されて、占領も時間の問題だった。そんなギリギリのところを色々助けてもらって、スイスに逃げて、そこで三人の知り合いだというバッシュさんに終戦まで世話になった」
ざっと七十年くらい前の話だ。名前は偶然の一致だろう。じいちゃんの話から察するに、じいちゃんより年上ぽいし…、年上だとしたら百歳超えてる。
「…しかし、お前、どうしてその名前を知ってるんだ?」
「ウチに来たお客さんにお礼がてら、じいちゃんが懐かしいって言って、頂いたトルテを食べてたって言ったら、じいちゃんのことを訊かれて…。知り合いかもしれないって言ってた」
「…ふむ。どんな御仁だった?」
「銀髪赤目のお兄さんと、金髪碧眼の体格のいいお兄さんなんだけど…」
「…あぁ。それは多分、私の知り合いだ」
「へ?」
「今度、家に連れてきなさい」
じいちゃんはそう言うと、にっこりと笑った。俺はそれに何だか頭が混乱してきた。どう見ても、年が合わないと言うか、つり合わないというか、…俺は考えるのを放棄して、取り合えずムキムキさんのメールアドレスに連絡を入れた。そしたら、直ぐに返事が来て、一週間後にウチに来たいと言う。じいちゃんにも確認を取って、「大丈夫です」と返事を返すと、「三人でそちらに伺う。ありがとう」というメールが来たのだった。




一週間後…。うさぎさんとムキムキさんと後、俺の知らない、欧州の貴族ってこんな感じ?な焦げ茶色の髪に菫色のきれいな瞳のお兄さんが我が家に来た。…ってか、三人ともデカ!

「こんにちは。わざわざ、すみませんね」
「いや、こちらこそ無理を言ってすまなかった。ご在宅か?」
「はい。案内しますので。すみませんが、スリッパに履き替えて頂けますか?」
履き替えて貰って、母屋からじいちゃんとばあちゃんが居る離れへ移動する。ウチは二世帯住宅で敷地内に廊下を繋いで、家屋が二棟ある。
「おお、池がある。何か、飼ってんのか?」
小さな渡り廊下は庭に面していて、小さな池がある。それを目に留めて、うさぎさんが口を開いた。
「じいちゃんご自慢の錦鯉が泳いでますよ」
「錦鯉ですか。興味深いですね。後で見せていただきましょう」
「ああ。ウチでも取り扱ってる業者があるが、本場は間近で見る機会もないしな」
「餌やりとかしてみてぇ!」