殺人スイッチ
殺してやりたい、殺してやりたい、殺してやりたい。あいつは俺が美術の時間に描いた絵を笑いやがった。先生は先生で、「鈴木くんの絵は個性的ですね」とか言いやがった。ああ、悪かったな。どうせ俺は絵が下手糞だよ。
殺してやりたい、殺してやりたい、殺してやりたい。階段で転んで膝を擦り剥いた俺を助けようとしなかったあいつらを。そりゃ確かに、1段飛ばして階段を昇ろうとした俺も悪かったけど。
世の中には殺してやりたい奴がいっぱいだ。俺の親も仕事が忙しいと言って、どこにも遊びに連れて行ってくれない。仕方ないことなのは分かっているけど、もっと俺に構ってくれてもいいじゃないか。
……もういい。今日は散々な一日だった。昨日よりももっと酷い。明日はもっと酷い一日になるだろう。畜生、あいつらさえいなければ。
「では、本当に殺してしまえばいいではないですか」
俺の頭の中に突然声が響いた。辺りを見渡しても、誰もいない。しかし、確かに何かがいる。気配だけはしっかりと感じ取れた。
「ああ、殺せるものなら殺してやりたいよ。でも、そうしたら警察に捕まる。俺はまだ小学生だから、死刑にはならないだろうけど、少年院に入るのはごめんだ」
俺は吐き捨てるように言ったが、俺の頭の中のそいつは気に留めずに、こう返した。
「ならば、誰にもバレずに人を殺すことができるならば、どうですか?」
「そんな方法あるわけが――」
「あるのです。押すだけで、自分が最も嫌いな相手を消すことができるスイッチが」
そんな声とともに、突然の閃光。眩しくて閉じた目を開けると、目の前の机に赤いスイッチが付いた鉄の箱があった。
「これを押せばいいって言うのか……?」
「はい、ただし、先程も言ったように、消せるのは“最も嫌いな相手”だけです。消す相手を自分で選ぶことはできません」
どうせ何かの冗談だろうと思いつつも、スイッチを押すだけならと、俺は半信半疑で押した。しばらく経っても何も起こらない。なんだよ、やっぱりただの冗談じゃ――。
俺の意識はそこで永遠に途絶えた。