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ACT ARME9 ~人と夢と欲望と

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陽が大きく傾き、人の気配はないが生き物の気配はそこはかとなく感じる平原。
そこを、一つの小さな影が静かに進んでいった。その様子は、喜びに満ち溢れているわけでもなく、悲しみに暮れているわけでもなく、憤っているわけでも、浮かれているわけでもない。
ただ『目的地に到達する』という目標を達成するための過程を踏んでいるだけの存在だった。
目的地の名前は知らない。いや、名前はないと言ったほうが正しいか。だが、一番己が長く存在していた場所。
そこで己は『処分』される。そのことに関する恐怖や、己の一番の旧知の者を撃ち殺したことに対する罪悪感もない。
ただ己が犯した禁忌の処理をするだけだ。
ただ、それだけだ。


道なき道を通り、立ち止まる。一見木々の合間にできたただの空間でしかない。
しかしNo.1が手をかざすと、一瞬地面が軽く光り取手が出現する。それを握りゆっくり上に持ち上げる。
すると厚く重そうな割には一切の音を立てず蓋が開き、その中に身を入れた。
入り組んだ迷路の中を進む。もし道を踏み外せば、一生この場から抜け出すことはかなわないだろう。しかし、No.1は全く歩みを止めることなく迷路の中を進んで行く。
やがて、一見なんの変哲もない行き止まりの前で立ち止まった。目の前にあるのは周囲にあるものと変わらないただの壁。しかし、フォートが壁の隅を見上げると、少しの間を置いてから壁が上にスライドし中の部屋へと続く扉が開いた。
これで目標は達せられた。己がなすべきことはあと一つ。


地下の空間にしては結構広い部屋の中央近くまで進む。すると部屋のちょうど半分ほど明りが入り、フォートが立っている側だけ明るくなった。
「・・・戻ったか。」
反対側の姿が見えない暗がりの奥から、フィルターを通したようなくぐもった声が聞こえる。
「ここへ戻ったということは、覚悟を決めているということだな?」
再び奥から声が聞こえた。
その声に、フォートは無言で頷いて返答した。
「そうか、ならばこちらへ来るんだ。」
その指示に従い、No.1は歩き出す。
覚悟を決めているかという質問に対し己は頷いたが、実際のところは覚悟などしていない。
覚悟だけではない。この世に対する未練も、今まで己が生きてきた人生を振り返って湧き上がる感慨もない。
いや、一つだけ。己がここを一ヶ月半ほど離れる原因となったあの場所。あそこのことを思い返すと、拭いきれないわだかまりがほんの少しだが、確かにあった。
これがもしかすると『寂しさ』だったのかもしれないが、この生涯で寂しいという思いを抱いたことのないNo.1は、それが何なのか皆目見当がつかなかった。
だからNo.1は、そのわだかまりを現状不必要と判断した。
いま必要なのは、今回の件の始末をつけること。ただそれだけ。それを妨げる障害は存在しない。
これまでの中で一番楽なものだった。



「たーのもぉー!!」
突如威勢のいい道場破りのような声と、扉をぶち抜く破壊音とともに予想しない『障害』が発生した。


破られた扉から、ルイン等7名が中に侵入した。
「お前たちは・・・。何故、どうやってここに侵入した。」
暗がりの奥から声が尋ねる。
「何故?どうやって?何故のほうは別に説明する必要ないと思うんだけどな。んで、どうやってここを割り当てたのかも簡単。尾行しただけさ。」
そういって手に持っているものを見せつける。
奥の声の主が見えているかはわからないが、No.1にはきちんと見えて、それが何かもわかった。
そしてすぐさま自分の身の回りを丹念に調べる。
やはり見つかった。米粒よりも小さい何かが。
「発信機・・・」
No.1が呟くと、ルインはにやりと笑った。
「ご名答。これは特別なものでね。相手は発信機を付けられても分からないようになってるんだよ。詳しい説明はツェルよろしく。」
案の定丸投げされた説明係を指名されたツェリライは、やはりそうなるかという表情を浮かべてから説明に入った。
「その通信機は相手に気付かせないよう極限まで縮小化、軽量化を図っています。また、特定の受信機のみ電波を受信し、ジャミングを受け付けません。少し身の回りを調べた程度で発信器を発見したフォートさんの眼は流石ですね。
それと、ここに至るまでの迷宮はQBUで探索しながら進ませてもらいました。外敵の侵入を阻むためとはいえ、ずいぶんと手の込んだつくりになっていましたね。思わず感心しました。」
「以上で説明終わり。何か質問は?」
調子に乗って仕切ろうとしたルインにグロウの拳骨が入ったところで、あたりは再び静かになった。
涙目になりながら頭をさすり、ルインが話を続ける。
「ないなら、こちらからも質問させてもらうよ。・・・その前にとりあえずさ、姿くらい見せてくれないかな。見えないと何か話しにくいんだけど。」
三度の静寂。まるでルインの呼びかけは、奥の暗闇に飲み込まれて相手に届いていないかと錯覚させた。
しかし、声はきちんと届いていたようだ。奥の明かりがつき、声の主が姿を現した。
声の主は、全身黒ずくめだった。素肌が見える部分が一部もない。顔には仮面のようなものをかぶっている。これも真っ黒だ。声がくぐもっていたのはこれのせいだろう。
あまりにも黒以外の色が見当たらないため、その場で動かず佇んでいると、それが人であると認識できなくなるほどだ。
「これはまたいろんな意味で奇抜な姿をしていらっしゃる。そんなに黒好きなの?」
この質問は答える必要がないと思われたのか、返事はなかった。ルインも別にそこまで回答を求めていなかったので、気にせず本命の質問をする。
「僕をフォート・・・No.1に襲わせた理由は?なんかそっちに恨みうるような真似をした?僕は普段人に恨み買うような真似はしてないと思うんだけど。」
その言葉に、一部の面子が一斉に「は?」という表情をとった。その無言の重圧に居たたまれなくなったルインは、普段することがない咳払いを無理やりして空気を変える。
「それで?返答はいかに?」
相手はしばしの沈黙の後、回答した。
「私の目的は、争いの火種となるものを抹消することだ。」
争いの火種。ルインは、その言葉が出た時から感じる背後からの視線をガン無視して話を続ける。
「争いの火種の抹消ねぇ。随分と崇高な思想をお持ちのようだけれど、それ、そっくりそのまんま自分の行為が当てはまるということの自覚はしてんの?」
そのルインの問いには直接答えず、黒ずくめの男はぽつりぽつりと語りだした。
「人は暴力をやめることを知らない。主義思想の相違、損得勘定の衝突、果ては己の私利私欲のためだけに人は躊躇なく暴力を続ける。言葉という意思伝達の方法をもっていながら、人は己の感情をただ相手にぶつけ、斃すことをやめない。
私は、それがどうしても解せない。どうしても言葉を届かせたくとも、相手は聞き届けてくれない。」
「だから毒を以て毒を制すよろしく、暴力が起きそうなところを事前に暴力で消し去る選択をしたってこと?」
ルインの挑発するような発言にも、眉一つ動かさず(眉は見えないが)黒ずくめの男は返す。
「そうなるな。周囲からは私の行為は邪悪と蔑まされるだろう。だが、私は止まることはできない。」