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オルゴール人形の3つの願い

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『オルゴール人形の3つの願い』

 やあ。
 またお話を聴きに来たのかい?
 まあ、とにかくこっちに来てたき火にあたりなよ。
 今日はとっても寒いからね。

 さて……どんなお話をしようか?
 そうだな……うん、君、知っているかい?
 公園通りのはずれ、小さな赤いひさしのおもちゃ屋のこと。
 そう、あの大きなにれの木のある庭の隣の店さ。
 その店先のウインドーに、それはとっても古い真ちゅうのオルゴール人形が飾ってあるんだけど、今日はその人形の話をすることにしようか。

 そのおもちゃ屋さんはとっても古いお店で、今の店長のおじいさんのおじいさん、そのまたおじいさんのおじいさんが始めたんだ。
 あのオルゴール人形も、おのおじいさんのおじいさんのおじいさんがお店を始めたころからずっと、ウインドーに飾られていたんだよ。
 ほら、耳を澄ましてごらん?
 オルゴールの音色が聞こえるだろ。

トゥリリ、トゥリリ、トゥリリラ、トゥリリララ。

 来る日も来る日もああやって、彼はオルゴールのリズムに合わせておどるんだ。
 花の咲く、春の日も。
 セミたちの歌う、夏の日も。
 落ち葉が舞う秋の日も。
 そして、今日みたいに雪の降りそうな、寒い日だって。
 そうして幾年、踊り続けただろう。
 けど、誰も彼を買ってくれるお客さんはいなかったんだ。

 ごじまんのぴかぴかだった真ちゅうの身体にも、いつしか緑青が吹き、ゼンマイの歯車にもガタがいつの頃からかガタがきて、すっかり彼はみすぼらしい姿になってしまった。
 同じウインドーに並んだ真新しい電池式のおもちゃたちは、そんな彼の姿を見て笑うんだ。
「ほら、あのポンコツ人形が今日も踊っているよ」
「あらいやだ、ご覧あそばせ。あの緑青ときたら」
「ああ、歯車がさびついて、なんとふゆかいな音を立てるんだろう」
 そんなオルゴール人形たちに腹を立てたオルゴール人形は言うんだ。
「うるさいやい! そんなに言うなら、君たちも一緒に踊ってごらん!」
 だけど、電池式のおもちゃ達は彼を小馬鹿にしてこう答えるんだよ。
「やだね、そんな古臭い踊り、誰がするものか」
「君みたいなポンコツと一緒にしないでおくれよ、はずかしいから」
 もちろん、オルゴール人形はくやしくてたまらない。
 電池式おもちゃたちのクスクスという笑い声が聞こえないフリをしながら、彼は心の中でいつもこうつぶやいていたんだ。
『ああ、ぼくが人間だったら、こんな奴らにバカにされたりしないのに』
『見てろ、いつかきっと、お金を持ったお客さんがぼくを買ってくれるはずさ。そうしたら、みんな驚くだろうなあ』

 そんなある日のことさ。
 いつものようにウインドーで踊っていたオルゴール人形は、窓ごしにじっと自分のことを見つめる女の子がいるのに気づいたんだ。
 それは、黒い髪に真っ赤なリボンをかざった、大きな黒いひとみの女の子だった。
 にっこりとほほ笑みながら、じっと見つめている。
『なんてかわいい子なんだろう? どこから来たのかな?』
 人形はおどりながら、ついつい女の子のことが気になってそんなことを考えていた。
でも、人形は女の子と話すことはできなかったんだ。
 だってそうだろ?
彼は真ちゅうでできた、機械じかけの人形なんだから。
 できるのはただ、オルゴールのリズムに合わせておどることだけ。
 それでも、人形には女の子が自分のおどりを見て笑ってくれることがとっても嬉しかった。誰かが自分のおどりを見て笑ってくれたのなんて、何年、いや、もう何十年ぶりだろう? 

 それから毎日、女の子はオルゴール人形のおどりを見にやってきた。
 人形はただただ、女の子のためだけに、踊り続けたんだ。
 気がつくと、春が過ぎて夏が終わり、いつの間にか落ち葉のじゅうたんが道を覆う季節になっていた。それでも、相変わらずあの女の子は毎日人形のおどりを見るために毎日店の前へとやってきた。初めのうちこそ、人形はただ女の子におどりを見てもらえるだけで嬉しかったが、そのうち、女の子のことが気になってしかたがないようになっていた。
 あの子の名前は? どこに住んでいるのだろう? 食べ物はなにが好きで、遊びはなにが上手で……いつしか、人形は毎日寝てもさめても、女の子のことばかりを考えるようになっていた。彼は、あの女の子のことが心の底から大好きになっていたんだ。

 そうして、冬がやってきた。
 しんしんと雪が降り積もる、ある晩のこと、
 オルゴール人形は明かりの消えた店の中に、店主のおじいさんが入ってきたことに気づいた。おじいさんが手に持っていた虹色の羽根でそっとオルゴール人形をなでると、なんと驚いたことに、人形はオルゴールの台からはなれて、自由に動き回れるようになったんだ。
 びっくりしている人形に、おじいさんはやさしい声で語りかけた。
「どうだい、びっくりしたかね?」
「は、はい! ……でも、いったいどうやって?」
「ちょっとした魔法のようなもの……そう思ってもらえればいいさ」
 なぜ、おじいさんはこんなことをするのだろう……人形がそう思っていると、まるでその心が見えたかのように、おじいさんは答えた。
「今夜はクリスマス・イブだ。わしはおまえにプレゼントをしたいと思ってね」
「プレゼント……?」
「そうさ。おまえはもうずいぶんと長いこと、この店のためにおどってくれたからね。そのお礼をしたいのさ」
 そう言って、おじいさんはさっきの虹色の羽根を人形にむかって差し出してみせた。
「これは魔法の羽根だ。この羽根には3つだけ、どんなお願いでもかなえることのできる魔法の力があるんだよ」
「お願いを、かなえる力……?」
「この羽根を使っておまえの願いをかなえてやろう……それがわしからのプレゼントだよ」
「本当に、本当にぼくのお願いをかなえてくれるんですか!?」
「本当さ」
「本当に、どんなお願いでも?」
「ああ、本当さ」
 おじいさんの言葉を聞いて、オルゴール人形が思ったのはあの子のことだった。
 ああ、ぼくが人間だったらどんなに良いことか。
 もし、そうなれたらぼくはあの子を迎えにいくんだ。
 あの子はどんなに驚くだろう?
 両手いっぱいのきれいな花束をおみやげに、あの子に会いに行くんだ。
 そうしたら、あの子はどんなに喜んでくれるだろう?
 それから、ぼくとあの子は……。
 
「どうだ? お願いは決まったかな?」
 おじいさんの問いかけに、人形は胸をはって答えたんだ。
「それじゃあ……ぼくを人間にしてください!!」
「ああ、お安いご用さ」
 おじいさんが虹色の羽根をさっと一振りすると、人形はたちまち、とてもりっぱな青年に変身した。
 人形はびっくりして、つい大声をあげてしまう。
「わあ、本当に人間になった!!」
「言っただろう? この魔法の羽根はなんでもできるんだって」
 おじいさんは自慢げににっこりほほ笑んで、言葉を続ける。
「さあ、2つ目のお願いを言ってごらん?」
「それじゃあ……両手いっぱいの、きれいな花束をください!」
「ふむ、そんなもんでいいのかね? どれ、お安いご用さ」
 おじいさんはもう一度、虹色の羽根をさっとひとふり。