Lady go !― 幸せがクルマで♪ ―
_160000km 〜 ----------km
別れの日の朝、ママさんはワタシのところにやってきた。
どうやらワタシ、お昼頃には引き取られていくみたい。なのにママさん、まるでこれからドライブにでも行くみたいに丁寧にワタシを洗いはじめたのよ。
それを見ていたチビちゃんも一緒になって手伝ってくれる。
その後からパパさんも加わって、みんなでワックスをかけはじめてくれた。
そうしてピカピカにして貰ったワタシはもう嬉しくって、どうにかお礼の気持ちを伝えたくって、でも出来なくて、もうどうしたらいいのかが分らなくって。
「最後にもう一度エンジンの音が聞きたいな 」
ふいにママさんが囁いて運転席に滑りこんできた。
キーに指をかける。
ママさんが気に入ってくれたエンジン音。
ワタシはママさんの為に、なんとかもう一度だけ聴かせてみたくなった。
呼吸を整えてママさんがセルを回す時を待つ。
残り僅かなバッテリー…
そしてセルを回した瞬間、思いっきり力を振り絞った。
キュルキュル…、、、
キュルキュルキュル…、、、
もう少し
苦しいけど…
でも……
もう少し
ママさんが 絶妙のタイミングでアクセルを踏み込んで、、
今ね!!
ドゥルゥゥンブルンゥンブブブブ…、、、(ヤッタァァァァ!)
ドッドッドッ…ドッドッドッ…ドッドッドッ…♪
ブルルゥン ブルオォォ〜ン、ボッボッボッ…、、、
ブルゥボォゥゥゥゥゥン 、、、ボッボッ…、、、
吹け上がったエンジンは、でも、少ししてからまったく止まってしまった。だけどもちっとも悔いはない。最後にママさんの満足気な微笑みを見れたんだもん。
お昼にワタシはお迎えに来た牽引車とロープで繋がれちゃったわ。
行先はママさんと出会ったあの場所なんだろうな。
パパさん、ありがとう。
チビちゃんサヨナラだね…、、離れたくないってダダをこねてくれたけども、ワタシもあんなハコに入るところは、やっぱり見られたくはないから。ゴメンね。
牽引車は走り出すと家族が見送る中、ワタシは白い家にもお別れをした。
ゆっくりと牽引車に引かれて進むワタシをスイスイと追い越していくクルマたちが、ピカピカのボディに映りこんでくる。
アノコたちにはワタシが映らない、なんて誇らしく感じて。
行き先がどんな場所でも、優しい家族のお陰でこの最後のドライブを心から楽しむことができる。もうずっと前に終わるはずだったワタシを、また広く自由な世界に誘い出してくれて、なんて感謝すればいいのかな。
静かに その時を待ちながら
思いは これだけ…
ママさん ありがとう
さようなら
作品名:Lady go !― 幸せがクルマで♪ ― 作家名:甜茶