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Night on the Galactic Railroad

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鷲の停車場



ティファは急ぎ足でセブンズヘブンへの帰りを急いでいた。バレット達アバランチは遂に魔晄炉爆破計画を決行するらしい。
自分が参加する訳ではないが、既に計画を知らされているティファは、酷く緊張していた。薄暗いスラムを、縫うように早足で歩く。
備品の買出しに手間を取ってしまった。もう日が暮れているので、いつものスラムの喧騒は無く、人もまばらだ。
(そうだ、近道しよっかな)
このプレートの下のスラム街は、複雑に通路が入り乱れていて、無法地帯にも等しい。ミッドガルに住んで五年になるティファでさえ、時々道に迷う事がある。
しかし今はなりふりかまっていられなかった。早く帰って、みんなに温かいご飯をつくってあげなくては。大事な作戦の前だもの。
ティファは買出しの荷物を片手に、フェンスを飛び越えて知らない道に足を踏み入れた。前にジェシーが教えてくれた近道だ。ミッドガル建設の折に放置された重機類や、奇妙な形の民家が軒を連ねてティファを出迎えた。
(大丈夫、ジェシーが教えてくれた様にちゃんと歩けば、迷ったりしないわ)
ティファは奮い立たせる様に自分に言い聞かせた。このスラムで知らない場所に一人で行くのは、はっきり言って危険だ。何処に何が潜んでいるか知れない。でもティファは腕に多少覚えもあるし、多分、平気だ。
暗い小道に足を踏み入れる。野放図に取り付けられたネオンがぼんやり光っている軒先を抜けて、ティファは小走りに駆けて行く。
(次の角を右に曲がって、左へ進む、ええっと、後は何だったかしら)
ティファはジェシーの言った話を思い出していた。で、その右に何でも屋さんがあるのよ。ええ。最近出来たらしいんだけど、すごく評判良くてね、七番街まで噂が流れて来るくらい。
アタシは行った事ないんだけどね。殺しから犬の散歩まで何でもやるのよ。そう。何でも屋。その看板の所を左に入って、そのまま…
大きく『HANDYMAN』と書かれた看板を見つけて、ティファはちょっと微笑んだ。ジェシーは本当に情報通だ。しかも正確で誤りが殆ど無い。
店の前で足を止めて、ティファは看板を仰ぎ見た。右上がりの、ちょっと癖がある字だ。いかにも、何でも来い。と言う感じの豪放な字。
店の扉は閉まっていて、中から明かりが漏れている。今日はもう店じまいしたのだろうか?何とは無しに眺めていると、中から何かが暴れる様な音がして、急に扉が乱暴に開いて、中から金髪の男がティファに向かって飛び出してきた。
「きゃあ!?」
男に飛びつかれて、ティファはもんどりうって地面に倒れた。持っていた荷物が袋から零れて地面に散らばった。男がティファの頬を掴む。反射的にティファは、駄目だ殺される。と思った。暴漢五人くらいならば、簡単に熨してしまえるティファなのに、目の前の男は異常に腕力が強くて、彼女はされるがままだ。
それになんて速さだろう。身構える暇も無くて、頭を強かに地面に打ち付けてしまった。肘のプロテクターが、がりがり地面を擦る音が聞こえる。ティファは叫び声を上げ様と慌てて男の顔を見た。
「ティファ!!」
男がティファの名を呼んだ。きらきら光る不思議な蒼い目が、ピンピンはねた豪奢な金髪の下から覗いている。白い肌と彫刻の様に整った顔立ち。音がしそうな程ばっちりと目が合って、ティファは息を呑んだ。
「クラウド…?」
その男はクラウドだった。七年も合っていなかったから、直ぐには判らなかったが、今ティファに向かって笑いかけているのは、紛れも無く幼馴染の彼である。
しかし記憶の中の彼は、他人に対してこんなに明け透けに笑う少年だったろうか?給水塔の上で見た思いつめた様な彼の顔を思い出す。良く見ると目の色も少し違う気がする。思い出の中の彼と、今の彼は、雰囲気があまりにもかけ離れていた。ティファの直ぐ傍で、ちりんと音を立てて鈴が鳴った。見ると、クラウドの首に鈴がかけられていて、それが彼に合わせて音を立てたのだと判った。
「ちょっと待てクラウド!タンマ!」
店の中からドタバタと男が走り出して来て、圧し掛からんばかりにティファを抱きしめていたクラウドの両腕持って、後ろから抱きかかえる様に彼女から引き剥がした。言葉にならない抗議の声がクラウドの口から零れ出た後、すぐ静かになった。
クラウドの顔から人形の様に表情が消えうせて、虚ろな視線が彼を抱きかかえている男を見た。ティファはその男に覚えがあった。ニブルヘイムにセフィロスと一緒に来た、あの時のソルジャーだ。
「知らない人に急に飛びついたら駄目だろクラウド!ほれ!謝りなさい!」
男がクラウドに向かって声を荒らげた。まるで幼児を叱りつけているみたいだ。クラウドは何の表情も変えず男の声を聞いていたが、ややあって感情の無い目でティファに視線を戻すと、ごめんなさい。と一言謝った。
「…い、いいの。怪我してないし」
「ホントすんません、こいつ何時もは大人しいんだけど、最近こう言う事多くて、腕力の抑え利かないんすよ」
男は謝りながらティファを立たせて埃をはらうと、散乱した荷物を素早く拾い上げて袋に詰め直している。ティファは確信した。間違い無い。ザックスだ。
「ザックス?」
「ん?」
ザックスが最後の荷物を拾いながらティファを振り返った。不思議そうにティファの顔を見ていたザックスの目が丸くなる。
「もしかして、ティファ!?無事だったのか!?」
「貴方こそ…」
ティファがザックスに近寄って、ありがとうと言って手を差し出した。ザックスが、あ、ああ、ごめんと言いながら荷物の入った袋をティファに渡した。ザックスが片手で頭をかいた。
「色々話したい事あんだけど…急いでた見たいだな」
「えっうん。まあ、そうなんだけど、私も沢山聞きたい事があるわ」
急いでいたのは確かだが、それよりも、あの時。ニブルヘイムを飲み込んだあの火の海から、目の前の男がどうやって生還したのか、ティファは知りたかった。
それにクラウドのこの状態はどうしたのだろう。急に飛びついて来たり、人形の様に押し黙ったり明らかに変だ。山の様に聞きたい事が溢れ出して、うまく言葉にならない。
「…とりあえず立ち話もなんだし、家来る?」
ザックスが親指を立てて後ろを指した。ティファが頷くと、にっこりと笑って、良かった。本当に。と言って、ザックスはクラウドの手を取った。クラウドの首にかかった鈴が、またちりんと鳴った。
「クラウド、家はいろう」
クラウドはザックスに引っ張られて家の中に入って行った。良かった。とザックスは言った。ティファも本当にそう思う。お互いに生きているとは思っていなかったのだ。
ザックスが玄関から手を招いてティファに入る様に促した。ティファが階段を上って、部屋に入る。
「おじゃまします…」
中は思っていたより清潔で、整頓されていた。見た所男二人暮らしの様だが、花瓶に花までいけてある。たださっきクラウドが暴れた為か、料理ののったテーブルの上には水が零れていて、机の下に椅子が脚を上に向けて倒れていた。その横にスプーンが落ちている。
「ごめんなー散らかってて。食事中だったんだわ、あ、荷物そこに置いてね。なんもねーけど寛いで」
作品名:Night on the Galactic Railroad 作家名:അഗത