小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
真朱@博士の角砂糖
真朱@博士の角砂糖
novelistID. 47038
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「退屈だよ」
ぼくの友人が椅子をぎしぎしさせながら言った。
「今日から夏休みだ」
そうだな、とだけ答えて、ぼくは台所から頂戴してきたひとつまみの塩を用意しておいた水へ加えた。
「さっきからなにをしてるんだい?」
スプーンを使ってそれを攪拌していると友人が椅子から立ち上がりぼくの手元を覗き込んできた。
「海水と同じ塩分濃度の水を作ってる」
友人はわざとらしく、やれやれといった表情を作って僕から一歩離れた。
「また、海か」
ぼくは十分に攪拌されたその塩水を、スプーンで口に運んだ。あんなに少量の塩なのにかなりしょっぱく感じた。
「ひとくちどう?」
ぼくは友人にスプーンを差し出した。
友人はため息をついてそれを受け取り、水を掬って口へ運んだ。
「ほんとにただの塩水だな。これが海水?」
「と、同じ塩分濃度の…」
あー、はいはい、と友人は解説を遮ってスプーンをぼくに押し付けた。
「なぁ、そんなことして、何になるっていうんだよ」
何度聞かれたかわからない質問に、ぼくは何度答えたかわからない答えを返す。
「ぼくは、海が見たい。海を知りたい。それだけだよ」
「こんなにたくさん海に関する本を持ってるんだ、十分じゃないか」
ぼくの部屋を見回しながら友人は言った。
「本物が見たいんだよ。波の音を聞いて、風のにおいを嗅いで、海水を舐めたいんだ」
ぼくが答えると友人は困ったような顔をして、少し考えてから言った。
「海は、まだどこかに残っているのかな?」
「さあね。歴史の教科書に海が載り始めてからもう1000年も経ってる」
ぼくはスプーンを置いて机へ向かい、分厚い本を手に取った。
「それも海の本?」
「800年前の辞書さ」
ぼくは辞書を引き、「海」の項目を友人に見せた。
「細かい字だな」
友人は目を細めながらぼくの指の先を読んだ。
「海。かつて地球の7割を占めていた塩水のこと。……これだけ?」
「そう、これだけ。笑っちゃうよな」
ぼくは自分の部屋を見回した。本棚に入りきらないほどの海に関する本や壁一面に貼られた海の写真。海にいたという生物たちはどうにも苦手なので写真は貼っていない。
「こんなに、海は広かったはずなのに。たった一行の説明しかないなんて」
友人は大昔の世界地図を眺めていたが、突然あっと声をあげて振り向いた。
「いい退屈しのぎじゃないか、海を探しに行こう」
ぼくは驚いたが、すぐに冷静になって、笑った。
「それは楽しそうだね」
「海ってのは、つまりはしょっぱくても、ただの水なんだろ?それなら、下へ下へ流れるはずだ。世界中で一番深い場所へ行ったら、もしかしたら最後の海が残ってるかもしれないぜ」
ぼくらの町はこの地図のどのへんかな…と友人はメルカトル図法の地図を指でなぞった。
「それは無理だよ」
ぼくははっきり言った。
「なんでさ」
友人の質問に、ぼくは笑って、ぼくらが住む町の場所を昔の地図の上で指差した。
「だってその場所は、今ぼくたちが立っている、ここなんだから」




(終)




おひさしぶりです。
卒論がおわり、ようやくまたお話が書けました。

作品名: 作家名:真朱@博士の角砂糖