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世田谷東署おちこぼれ事件簿2-3

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その物語は室町時代、今の東急世田谷線上町駅から北に歩いて三分程の所にあった、その時代にこの一帯を治めていた世田谷城の城主吉良頼康公が鷹狩りに出掛けた時の事だ。一羽の鷺を捕らえた事から物語は始まっている。捕らえた鷺の足に付けられていた短冊に頼康公の目が止まった。短冊には美しい筆跡で一首詠まれていた。
 その短冊を見た頼康公は、この短歌の主は誰かと興味を持たれ、家来に命じて短歌の詠み人を探させた。するとその主は奥沢城の常盤姫だと分かった。頼康公は常盤姫をたいそう気に入られ側室にと望まれ、姫は世田谷城に上がった。
 常盤姫は短歌だけでなく舞の名手でもあり、更に女ながも弓の使い手でもあった。それに容姿端麗で心優しく頼康公の寵愛を一身に受けて、やがて子を宿した。しかし、それを良しと思わない以前から城にいた側室達が嫉妬し、常盤姫が不貞を犯したとの有りもしない疑いを掛けて世田谷城から追い出した。
 常盤姫は両親に宛てて我が身の無実を訴えて、手紙を白鷺に託して空に離し、その後に常盤姫は身重のまま自らの命をたった。
 手紙を託された白鷺は、その途上の奥沢近くで力尽き手紙を届ける事なく死んでしまった。その死骸を見付けた村人は、哀れに思いその地に白鷺の死骸を葬った。後に白鷺の埋められたその場所に、白鷺にそっくりな鷺が羽を広げた様な綺麗な真っ白の花が咲いた事と言う。人々は常盤姫を偲びその花を鷺草と名付けた。
 やがて時が経ち常盤姫の疑いは晴れて無実が証明され、駒留八幡神社境内に厳島神社が建てられ常盤姫はその社に祀られたと言う物語が駒留八幡神社には残っていると純平は説明した。
「その時、常盤姫の子供の御霊も一緒に祀られたので、駒留八幡神社は別名若宮八幡宮と今でも呼ばれているんです」
「ほー・・そんな話があるのか」
 山本刑事は頷いた。
 純平はこの話と今回の事件が関連しているのではないかと考えているのだった。
 凶悪事件には違いなが、殺伐とした事件ばかりの中で事件に美学の様なものを山本刑事も何処かで求めていた。
「常盤姫親子が祀られているので駒留八幡神社境内にある狛犬は、子供の狛犬供と母狛犬が一緒にいる親子狛犬なんです」
「だからか、鬼平さんは何でも知ってるんだな」
 側にいた南田係長も純平の物知りに感心した様だ。
「駒留八幡神社で、しかも舞を舞う神楽殿の上で恨みを晴らす殺人なんてぴったりですよね」
「もしか、犯人が小説家だったら話の筋を創るのは得意だからな」
「それに飯田早苗は、この常盤姫の話を現代風に置き換えた小説を書いてるんです」
「ちょっと出来すぎだが、調べてみるか」
「はい」
「その前に被害者のストーカー男を調べるぞ。犯人だったら高飛びされる恐れがあるからな」
 しかし、山本刑事の心配は外れた。金沢一三は別件の詐欺容疑で都内の他の警察署に逮捕されている事が判明した。
 山本刑事と純平は、金沢一三が拘留されている東京拘置所に出掛けて尋問する事にした。
「柴田明子さんが死んだのは知ってるな」
「ああ」
「お前がやったのか」
「冗談じゃないすよ、金を搾り取るまで殺す訳ないでしょ」
「金を要求して彼女をゆすったな」
「人聞きの悪い事言わないでくださいよ、手切れ金ですよ。そんな簡単に捨てられたらこっちも生活出来ませんから」
 山本刑事はこれが今時の色男か、プライドもへったくれもない最低のヒモだと呆れて言葉が出なかった。
「金が無いって言うから、あの男・・・何て言ったか・・・」
「島田義雄か」
「そうそう島田だ。そいつに頼めて言ってやったのさ」
「どうしてだ」
「何だったか詳しくは聞かなかったが、島田に頼まれて同僚に会社からなんかやばい物を持ち出させて島田に渡したとか言ってた」
 数日後、金沢一三には柴田明子毒殺事件発生時にアリバイがあり事件とは無関係だと言う事が判明した。

「秘密漏洩の・・・相手の・・・」
「島田義雄ですか」
「ああ、婚約者の横取りと情報漏洩の両方でキーマンになってる、そいつの犯行の可能性も高い。取りあえず島田の顔を拝みに行くぞ」
 翌日、山本刑事と純平は、島田義雄の勤め先に電話を掛けて、直接本人から任意で聞き取りをする約束を取り付けた。
「私は何も法律を犯していませんよ。香山恵子さんなんて方は知りせん」
 島田義雄は香山恵子に会った事などないし、ライバル会社で情報漏洩があったなんて聞いた事ないと答えた。
「それじゃー、柴田明子さんは」
「友人です、お金は貸した事はありましたがただの友人です」
「柴田さんは香山さんの情報漏洩に関わっている疑いがあるのですがね、あなたが彼女にお金を融通したのは、その情報漏洩の礼金だったのじゃないですか」
「婚活のお手伝いはしましたが、情報漏洩なんて私は全く関係ありません」
「ほーっ・・・柴田明子さん婚約しましたよね」
「私は柴田さんに頼まれて友人を紹介しただけです。あとは当人が勝手に付き合って婚約した、私が関わったのはそれだけです」
「柴田さんが亡くなったのはご存知ですよね」
「知ってますけど」
「それじゃ・・・」
 山本刑事は、まだはっきりとした確証はなかったが、鎌を掛けて探りを入れてみた。
「もしかして、柴田明子に金をゆすられていたとか、貸したと言うお金は礼金の追加じゃないですか、柴田明子に金をゆすられていたんじゃないですか」
 島田義雄は柴田明子に再三金を要求されていて困り、その末に毒殺した可能性があると山本刑事は考えたのだった。
「失礼な、証拠でもあるのですか!」
 強気に出てきた島田義雄に、今度は嫌がるだろう質問をもう一度ぶつけて揺さぶってみた。
「あなたの発案で新商品が発売されて大当たりしたそうですね、柴田明子さんの会社で同じ新商品を発売する前に、あなたの会社から発売されたあの新商品ですよ」
「・・・同じ様な商品をたまたま開発していただけです同じだったと言うだけの事で、偶然です偶然」
 島田義雄は動揺した様子で山本刑事の問い掛けに答えた。
「偶然ですか」
「そうですか・・・そうそう、今回はおめでとうございます」
「えっ」
 島田義雄は今回の新商品に関する功績で昇進し、合わせて会社重役の令嬢と婚約したのだった。
「もういいでしょ、会議の予定があるので失礼します」
「またお話を聞く事になると思いますので、その時はよろしくお願いしますね」
 島田義雄は山本刑事の問い掛けに応えず行ってしまった。

「山さーん!例のやつ調べておきましたよ!」
 署に帰ると山本刑事は同僚の刑事に呼ばれた。
 山本刑事は島田義雄の聞き取り調査に出掛ける前に、刑事課の同僚に飯田早苗の情報データの収集を頼んでおいたのだった。
「有難う!」
「それがですね、驚かないでくださいよ・・・飯田早苗ですが、毒殺事件が起こる前に死亡してました」
「・・・ッ!」
 山本刑事も純平も言葉が出なかった。飯田早苗の犯行を何処かで期待していたので、思わぬ展開に力が抜けた。山本刑事は仕方なく笑うしかなかった。
「交通事故です。世田谷通りで車道に飛び出して即死です」
「飛び出して即死・・・失恋で自殺か」