嘆願書 人魚の生態に纏わる仮説と実証
cap.9 未来
今、人間は新たなる一歩を模索しているではないか。人間がせいぜい百年という期間で、海中に適応できるとしたら、このメカニズムは今後の人体生理学にも有効な研究材料のはずだ。これは新たな人類の進化の方向を示唆しているのだ。
人魚の研究を、この私をおいて一体誰ができるというのか。私は人魚をおびき寄せる方法だって、考えてあるのだ。この手紙を読んだ者は、私を助けなければならない。私を助けないでいることは、人類の損失である。
この島は腐っている。
いつもあの人魚の匂いが漂っている。時間は、ある。私は待っているよ。私はこれから先、1000年だって生きられるのだから。
だが、地球人類の命運は、そんなに持たないかもしれないねぇ。私は、人類を救うことが出来る唯一の知識をもっているのだ。
この手紙はいつものように、刑務所を出ることなく処分された。
男は毎日、このような長い手紙を書いている。 終わり
作品名:嘆願書 人魚の生態に纏わる仮説と実証 作家名:みやこたまち