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檀上 香代子
檀上 香代子
novelistID. 31673
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ベルにご用心

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ベルにご用心 
                                      檀上香代子

       文 子         六十五歳
       男 一         二十八歳  詐欺師
       和美          六十一歳  文子の妹

              一  場

     ダイニングキッチン、小さなテーブルと椅子。質素な茶箪
     笥。その横にボックスと固定電話。
     暗転の中、電話のベルの音。

文  子   (奥より出てくる)はい、もし、もし

     上手スポット、男一の姿が浮かび上がる。

男  一  (下手奥から、しゃがれ声)おかあさん?

文  子   あら、 どうしたの、その声?

男  一   のどが腫れて、いま病院なんだ。

文  子   やはり、ひどくなったの?昨日よりーーーーー

男  一   うん。新型インフルエンザの疑いがあるからって、
       検査なんだ。

文  子   そう、結果はいつ?

男  一   わからない。それで、頼みがあるんだけど。

文  子   なに?

男  一   今日、遅れた支払いの期限なんだけど、銀行にいけ
       ない状態だから、相手が、僕の会社に連絡入れると
       困る。僕の状況を説明して、水曜日には振り込むか
       らって伝えてくれない?

文  子   自分で連絡すれば・・・・

男  一   病院だから、長電話できないんだ。アツ 人がきたか
       ら、またかける。おかあさん、家にいる? 
       じゃ、後で(電話切る)

     落ち着かない文子。 ややして電話が鳴る。

男  一   お母さん?

文  子   うん。

男  一   本当に申し訳ないけど、一時立て替えてもらえるお金
       ないかな。

文  子   立て替えるって、いくら?

男  一   三十万。

文  子   そんな大きなお金あるはずないじゃない。年金暮らし
       だよ。

男  一   無理かなあ。(泣き出しそうな声)なにしろ、こんな
       状態だし/・・・・・・

文  子   (思案してたが)なんとか出来るかもしれない、全部は
       無理だろうけど。

男  一   頼むよ。半分でもあれば、何とか頼んで、説得してみる
       から。どのくらい掛かる?

文  子   一時間ぐらいかな。

男  一   検査も終わるだろうから、電話するね。有難う助かるよ。

文  子   じゃあ。(電話を切る)


            二 場


         喫茶店の一角。テーブルに腰掛ける文子と和美。


和  美   本当に勲だったの?

文  子   間違いないわ。昨日具合が悪いって言うから、食材届けて
       から、そのときインフルだと大変だから、病院に行くよう
       に言ってきたもの。

和  美   勲に電話してみたの?

文  子   だって、病院だって・・・・・

和  美   あの勲が、何に使ったのよ。人に借金してまで・・・・・

文  子   聞いてない。

和  美   勲の会社に電話して、休んでいるか聞いてみれば・・・・

文  子   カスタマっていうのかな。家族にもそこの電話を言っては
       ならないんだって。だから知らない。

和  美   信じられない。

文  子   無理かな、貸してもらうの。

和  美   そうじゃないの。それくらいヘソクリあるわよ。 ただ、
       姉さん、お人よしだから騙されてるようなきがするの。

文  子   勲はそんな子じゃない。

和  美   分かってるわよ。勲じゃない、いまはやりの振り込め詐欺
       じゃないかな。

文  子   そんな・・・・・・

和  美   (文子の様子に)わかった。とにかく家に帰って、電話を受
       けて、私も行くから。
                                            暗転
           第 三 場


     文子宅 テーブルの前に座る和美と文子  電話が鳴る。

文  子   もしもし、

男  一   ああ、お母さん! 都合つきそう?

文  子   なんとか、(和美を見る、和美両手を広げてみせる) 
       十万円しかならないけど。

男  一   じゃあ、これから言う銀行に振り込んでもらえるかな。

和  美   (文子から受話器を取って)もしもし、勲さん?

男  一   誰?

和  美   誰だと思う?

男  一   ・・・・・・

和  美   貴方、本当に勲さん?

男  一   そうだよ。

和  美   どこの病院にいるの? 

男  一   新宿の病院。

和  美   じゃ、その場所教えて!そして、貴方の会社の名前も。

男  一   なんで、あんたに教えなくちゃならないんだよ。

和  美   あら、勲さんにしては言葉遣いが荒いわね。 お母さん
       にお金を貸してあげる以上、知る権利があるし、お母さ
       んが振り込むとしても、お母さんとそこの病院に行って、
       貴方を確認しときたいの。(話しながら、文子を手招く
      、一緒に受話器に耳よせる。)

男  一   母が信用ならないのですか。

和  美   いいえ、文子さんは信用してるけど、貴方は信用してないね。

男  一   母の子供である自分が信用できない? 貴方は母の友達でし
       ょう? 母を侮辱してるのと同じなんですよ。

和  美   (茶化すように)あら、あら、いつの間にか、しゃがれた声 
       でなくなったわね。ふ、ふふ

男  一   誰なんだよ、あんた?

文  子   勲の声じゃない!

和  美   あはは、ばれましたねえ。

男  一   覚えてやがれ、クソババア! 

和  美   忘れたよ。クソ餓鬼どの! 頭悪いね。あははは。

男  一   (荒々しく電話きる。)

     ホッとした表情の文子。

和  美   ああ、緊張してたら、のどカラカラ。 

文  子   お茶いれるわ。

                                            幕
  
                                         
    


作品名:ベルにご用心 作家名:檀上 香代子