君のいる場所~第一章~【番外編】
これは、僕がまだ六歳の頃の話。
先祖代々、僕らの家の義務は、六歳から城に仕えるということだった。
そして僕が六歳になる年に、初めて城に、親に連れられてやってきた。
「ここが、今日から住むところよ」
母が僕の隣で笑顔を見せながら言う。
僕は目の前に聳え立つ城を見上げる。
本来ならば、城に仕えられるということは名誉なこと、だが僕は、嫌だった。
しかし家の義務に背く事は出来ない。
嫌だとは言えないまま、僕は城に来てしまった。
今日から、城での生活が始まる。
そう思っただけで荷が重い。
母の期待。
僕は母が好きだから、期待に応えたいと思っている。
だが、嫌なものは嫌だ。
今からでも遅くはないかも知れない。
嫌だと、言ってみようか…。
そう思った僕は母を見る。
「母さん」
「ん、なに?」
僕を優しそうな目で見る母。
そんな目をされたら、言いづらいじゃないか。
「やっぱり、何でもない」
僕は目を逸らし、もう一度城を見上げる。
もういいや、なるようになればいい。
僕は半ば無理矢理自分を納得させた。
城に入り、国王の下へと向かう。
王室間の扉を母がノックする。
「国王様、ノランです。ただいま戻りました」
母が中に呼びかけると、扉が開いた。
「失礼します」
一礼し、部屋に入る。
中には一人の男と、その隣に父がいた。
扉を開けたらしき女性は、一礼し部屋を静かに出て行く。
「ダージス国王様、私たちの息子を連れてまいりました」
母が僕に視線を送る。
自己紹介しろということだろう。
「初めまして。ルイと申します。本日から、この城で働かせてもらいます、よろしくお願いします」
僕は家で習った自己紹介を一字一句間違えずに言った。
すると国王は満足気に頷くと優しい笑みを見せる。
「噂には聞いておるぞ。さぞ優秀だそうじゃないか」
どこでそんなことを聞いたのだろうか。
僕は心の中で少し呆れながらも微笑む。
「いえ、そのような大層なものではございません」
そう言うと、国王はまた満足気に頷いた。
「幼いのにしっかりしているな。…しかし、心に迷いがあるようだな」
「…!」
国王が、僕を真っ直ぐ見据える。
だがすぐに笑顔に戻り、優しい口調で言葉を紡ぐ。
「まぁよい。ノラン、ルイを部屋まで案内しろ」
「了解しました」
国王にそう言われ、僕たちは部屋を後にする。
部屋に向かっている途中、母から褒められた。
よく出来ていたと。
親に褒められるのは、悪い気はしない。
僕は少し照れくさく頷いた。
部屋に着き、扉を開ける。
だが中にはもう既に、人の姿があった。
「あら、エミリア、もう来ていたの」
母が中にいた少女に声をかける。
すると少女は笑顔を見せた。
「はい、ルイ君が来るのを楽しみにしていましたから」
「僕が、来るのを?」
何故楽しみなのだろう。
そう疑問に思った。
「あぁルイ、彼女はエミリア。貴方に色々仕事を教えてくれる教育係のようなものよ」
そう言われ、改めて少女、エミリアの顔を見る。
とてもキレイな顔立ちの少女で、笑うととてもきらきらして見える。
「エミリアです。よろしくね」
「…ルイです。よろしくお願いします」
僕は少し遠慮がちに言った。
「エミリアは貴方より二つ年上だから、しっかり言うこと聞くのよ」
二つも年上なのか、そうは見えないな。
それくらい、まだ幼い顔をしている。
「じゃあ私は、国王様のところへ行って来るわね」
母はそういい残し部屋を出て行った。
そして、二人っきりの空間になる。
「ねぇルイ君」
突然エミリアが話しかけてきて、思わず肩を震わせてしまった。
「な、何ですか?」
「…私、君が来るまでずっと一人だったの。部屋も一人だし、同世代の人もいないし…」
少し寂しげな表情で話し始めるエミリア。
「でもね!」
そう言って顔を輝かせる。
「君が来てくれて本当に嬉しい、改めて、これからもよろしくね!」
満面の笑み。
それがとても輝いていて、僕は思わず見とれてしまっていた。
城の生活なんて、つまらないものだろうと思っていたが、彼女がいれば、まぁいいかと、この時思った。
別に好きになったとかそういうものではない。
ただエミリアがいれば、毎日が退屈しない、彼女とは、仲良くやっていける。
そう直感的に思った、これが、僕が初めて城に来たときの出来事だ。
作品名:君のいる場所~第一章~【番外編】 作家名:まおな