短編集
「いたって平凡ではないか?」
この男は一体何をどうみて言っているのであろうか。と少女、麻友は男、春樹を睨みながらもため息を出す。
春樹は満面の笑顔で麻友を見ている。
「これのどこが平凡ですか。」
「ん?平凡ではないのか?」
麻友は体を震わせていた。どうやら怒り心頭らしい。春樹は首をかしげて麻友を見ている。
「どこが平凡ですか!!なんですか!この殿方の量は!!」
「俺の舎弟たち。なぁ?お前たち。」
『うぃっす!!頭!!』
「私は平凡にお付き合いをし、平凡に結婚をして、平凡に子供を産んで平凡に生活したいのです!」
「だから、平凡だって。なぁ?お前たち。」
「そうっすよ!姐さん!」
「姐さんと呼ばないでくださいまし!!」
麻友は舎弟の一人を睨みつける。舎弟はうっとりとした顔で麻友を見る。
今の麻友の顔はまさに"姐さん"といった顔つきであるからだ。
「お金持ちの生活に嫌気がさし、独り立ちをしてあなたと出会いましたわ。」
「まさに一目惚れだったな。」
「これで平凡な暮らしができると思っていましたのに・・。こんな・・・こんな・・・。」
「だから平凡だってば。」
「強面の殿方いっぱいのどこが平凡ですか!」
「でも、優しい奴らだぞ?」
「それは認めますわ。」
そこだけはしっかりと認めていた麻友であったがやはり腑に落ちないところが多々あるようだ。
麻友は春樹の腕の中から抜け出そうと立ち上がった。春樹はなんだか寂しそうな顔をして麻友をみている。
「どこか行くのか?」
「お掃除ですわ。これでも私は主婦ですもので。」
「姐さん!!それは俺らがやります!」
「姐さんは頭と一緒にくつろいでいてくだせぇ!」
「嫌ですわ!」
きっぱりと断ったことに驚きを隠せない舎弟たち+春樹。春樹にいたってはショックだったのか顔が青ざめている。
それを見た麻友はコホンと一つ咳払いをして春樹と向き合った。
「春樹さん、私言いましたわよね?家事は私がやります、と。」
「あ、ああ。」
「あなたはこう仰ったわ。"それはうちの舎弟たちがするからお前は何もしなくていい"と。」
「たしかに言った。」
「私は愛するあなたのために一人でやりたいのです。」
「麻友・・・。」
「すみませんが、舎弟の皆様。家事は私が全てやりますわ。」
そう言って麻友はその部屋を後にして洗濯機がある場所へと足を運んでいった。
麻友が去った場所をじっと見ている舎弟たちと春樹。
「・・・頭。いい奥様お持ちになりましたね。」
「ああ。俺は世界で一番幸せ者かもな。」
「俺もあんな奥さんほしいっすわ。」
「やらんからな。」
ギロリと舎弟の一人を睨む春樹。舎弟たちは冷や汗を流していた。
「そ、そんなに睨まなくても取りませんよ!!」
「そうか。安心した。」
春樹はニカっと笑い麻友が出て行った場所をじっと見ていた。
麻友、こういうのが平凡っていうんじゃねぇか?ゆったりとした時間がすぎて、お前との時間も過ごせて。
そして何より、強面の舎弟たちがお前を慕ってくれている。
これも一つの平凡な日々なんじゃねぇかと俺は思う。