君のいる場所~第一章~【四話】
翌朝_
朝食の広間には、ダージスとカナデが向かい合って座って食事をしている。
だが二人の間に会話はない。
周りの使用人は、それをただただ見ているだけ。
広間には、皿の音だけが響いている。
「ご馳走様でした」
カナデがそう言って席を立つ。
「カナデ、今日の午後は隣国の『シガン王国』へ訪問するから、支度しておきなさい」
「分かった。…外も少し歩けるかな」
少し遠慮しがちに言うカナデ。
ダージスは考える素振りをし、カナデを見る。
「数分だけなら、大丈夫だろう。その場合はアリサかルイを連れて行きなさい」
その言葉を聞いたとき、カナデは顔を輝かせた。
「ありがと、父さん!」
そう言うと、カナデは広間を後にした。
「まったく、カナデも私と一緒だな」
ため息混じりにダージスは呟く。
「国王様も、カナデ様のようなお人だったのですか?」
隣にいたルイが、ダージスに問う。
「あぁ、外に憧れていて、早く自由になりたいと思っていたよ。しかし、年を重ね、国を治める地位に立つ頃には、もう外などどうでもよくなっていた。カナデも、きっとそうなるだろう」
昔を懐かしむような表情でそう言った。
アリサはその話を聞いて、少し寂しさを覚えた。
もう何年か経ったら、彼と一緒に城は抜け出せなくなる。
隠していたが、カナデと外に行くのが、アリサの楽しみのひとつだったのだ。
いずれは二人も年を取り大人になっていく。
そうすれば外への関心も薄れていってしまう。
アリサは、出来ることなら、大人になりたくないと願っていた。
カナデとは真逆の願いだったため、誰にも言えず隠してきたのだ。
「アリサ、どうしました?」
考え込んでいるアリサを見て、ルイが声をかけた。
「い、いえ…何でもありません。カナデ様のお支度を手伝って来ます」
アリサは誤魔化すように言い、広間を出て行った。
「アリサは、まだ幼いのに立派だな」
ダージスは満足気な顔でルイに言う。
「そうでしょうか…まだまだだと思いますよ」
厳しい判定をするルイに、ダージスは少し肩を竦める。
「そんなことはないぞ。お前もあの年ぐらいの時も立派に仕事をこなしていたな」
「買い被りです。僕もまだまだでしたよ」
困ったような表情をするルイ。
「まぁそう自嘲するな。お前は私の期待以上に仕事をうまくやってくれている。感謝している」
そう言うと、ダージスは席を立った。
「ありがたきお言葉」
ルイは一礼した後、手に持っていたスケジュール表に目を移す。
「それでは、城を出る時刻ですが、十一時でよろしいでしょうか?」
「うむ、問題ない」
「ありがとうございます。十時五十分に、お部屋にお迎えにあがります」
「分かった。頼むぞ」
「はい」
そう言い残すと、ダージスは部屋を出て行った。
『シガン王国』
この国は、『ジル王国』の隣に位置する国である。
規模は、『ジル王国』には及ばないが、かなり大きい。
昔から、この二つの国は交流が深く、今日は月に一度の茶会の日だ。
何かが起こる予感が、アリサとルイの中にはあった。
このまま無事に、何もないことを、二人はただ願うことしか出来なかった。
作品名:君のいる場所~第一章~【四話】 作家名:まおな