DESTINY BREAKER 一章 5
『アレならナツのお母さんに渡しといたよ。あのときナツは家にいなかったけど。』
『ぶー、桜花ちゃん反則だよう。』
『だからどうするのって聞いたのよ。この時間じゃ今からお店に買いに行ったとしても閉まっちゃうだろうし。』
桜花は自転車を駐輪場に止め鍵を閉めると、買い物袋を片手にもう一方の片手に手提げバックを持ち小走りで自宅へと続く石段を登っていった。
普通の家庭では家に帰るために石段を登るということはないだろう。
しかし桜花の家は古くからの伝統を受け継いでいる(らしい)由緒正しい(のかな?)四光院という地元でも大きな寺であり。この石段も古くからの(以下略)石段らしいので、それを自らの足で登ることが有り難いのである・・・といわれているのである。
ただ桜花本人としては、有り難いとかいう気持ちは特になくただ登らなければ帰宅できないということで、なかば強制的に百数十段もある階段のぼりという一般人なら苦行を強いられているわけなのだがそれも十数年ほぼ毎日続けているため脚が勝手に前へ進むように感じ疲れを感じることがなくなっていた。
とりわけ、桜花の体力の秘密はこのような日常に隠れているのだと夏樹は言っていた。
ただ、師走という言葉はお坊様が忙しく走り回っている様をイメージさせ、世間も何かと忙しさを生活に表していくが、このような季節の中で鼻歌を口ずさみながら毎日階段を軽やかに駆け上る桜花の姿は異色ではあるが、それでも暖かな春のなかにいる蝶をイメージさせるほど穏やかだった。
「そうはいっても慣れっていうのは怖いなぁ・・・。」
疲れを感じなくなったということはイコール体力が付いたということでさらにイコール筋肉がついてゴツゴツになったと今の自分の状態を置き換え桜花は苦笑した。
幸い、本宅に続く石段は木が覆いかぶさるようにアーチのような形を成していてそのおかげで雪は積もっていなかった。
木々が、そう意図して成しえたものでなくとも
「ありがとう。」
と石段を包み込む緑の住人たちに優しくお礼の言葉をかけた。
フシューフシュー
闇の中に黒い塊の呼吸
ザシュザシュザシュ
闇の中に黒い塊の駆ける音
ポタポタポタ
闇に中に黒い塊の涎
近クニハ居ル
今マデ食ベタコトノナイモノガ居ル
ダカラ急グ
誰カニ食ベラレルマエニ
オレツイテル
小サイケド何ヨリモ美味ソウ感ジル
オレ凄イ
コンナ獲物ミツケタ
作品名:DESTINY BREAKER 一章 5 作家名:翡翠翠