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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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第2章 発進



西暦2192年。古代進はその日、横浜の街にいた。あちこちで多くの人が叫んでいた。

「侵略者ガミラスとの戦いに加わる者を求めている! いま志願すれば戦闘機パイロットでもなんでも好きに志望できるぞ!」

と叫ぶ軍の募集。しかし多くの人々は、目もくれずに通り過ぎていた。中には『志望できるってだけだろ』と言い捨てていく者もいる。パイロットなど『なりたい』と言えばなれるものではないのは誰でもわかることだった。

一方、反戦の旗を振る者。

「人類が宇宙艦隊を持ったことが侵略者を呼んだのです! 武器を捨てればガミラスは去りまーす!」

狂気の主張以外の何物でも有り得なかった。やはり普通の人々は、顔をそむけて通り過ぎる。

さらにまた、道行く人を捕まえて小冊子を渡そうとする一群もいた。

「ガミラスの遊星で地球人類は滅びますが、神を信じる者だけは高い世界に甦ります。この聖なる活動にあなたも参加しませんか?」

信じる者が救われた例(ためし)はもちろんないのだった。ガミラスが太陽系の果てに現れてから一年。まだ多くの人々は、この戦争に深い関心を寄せていなかった。ある意味ではそれは正常であるのかもしれなかった。何しろ、ひどいのになると、こんなことを叫ぶ者までいたのである。

「騙されるなーっ! 政府は嘘をついているーっ! 宇宙人などいるわけがなーいっ! すべては人を地下に押し込めようとする政府の陰謀だーっ!」

世界各地で地下都市建設が始まっていた。しかしやはり多くの人は、本当にそこに住まねばならなくなるとは信じられない気持ちでいた。不安げに空を見上げながらも、異星人が本気で地球人類を絶滅させようとしているという話にまだ実感を持てず、まさか自分の頭には落ちてこないのではないか――それとも、自分が行かずとも、誰かがなんとかしてくれるのではないか。ガミラスなどいずれは石を投げるのに飽きてどこかへ去ってくれるのじゃないか――そんな考えを捨てられずにいるようだった。

遊星が落ちる落ちると言われながらも冥王星と地球は遠い。ひと月ほど前最初の遊星が届いたが、落ちたのは海の上だった。それから砂漠。山の中……死者も世界でまだ百人いるかどうかだ。学者はいつか狙いが正確になるかもしれないなどと言う。そりゃあ学者はそう言うだろう。

人々は駅を出て、横浜の街や港に繰り出していく。古代はひとりポケットに手を突っ込んで、雑踏の流れに身を任せていた。このとき古代は高校生。数日前に帰省して今日また軍に赴いていった兄の古代守のことを考えていた。

「お父さんお母さん、行ってまいります」そう言って兄は出て行った。それから、「進、父さんと母さんをよろしくな」と。

あれが軍人てもんなのかな、と思った。まるで別人を見るようで、あれが兄貴の守とはちょっと信じられない気がした。戦争へ行くってことは、戦場で死ぬかもしれないということだろうに。それも宇宙で。タマに当たるか爆発で吹き飛ばされるか、真空の宇宙空間に投げ出され息ができずに死ぬのかもしれない。不気味なエイリアンに襲われて血を吸われて死ぬなんてこともまるきりないとは言えまい。家族や地球、人類を護るためなら怖くないというものなのか。

案外そんなものかもしれない。しかし、ガミラス――やはり、いまひとつピンとこない。異星人の地球侵略なんてもの、やはり何かの冗談なのと違うのか。そんなもので死んだらただのバカじゃないのか。

そう思っていた。と、群集がざわめいた。誰もが急に空を見上げる。

「ああっ!」

人々が叫び出す。古代も見た。空に小さく光り輝くものがあった。それは煙を吹きながら、みるみるこちらに向かってくるようだった。

ここのところのニュースで連日、繰り返し映像で見ているものと同じだった。

「ガミラスの遊星だーっ!」

誰かが叫ぶ。街は悲鳴に包まれた。人々が思い思いの方向にてんでバラバラに逃げ惑い出す。しかしどこに逃げるというのか。この横浜に落ちるのならば――。

違った。それは煙の尾を引いて、街の上を過ぎていった。北から来て、南の方へ。その方角には――。

まさか、と古代は思った。また海にでも落ちるんじゃないのか。そうだろう。だってあれだけ大きな海に突き出てるだけの小さな半島――。

まず最初に光が見えた。次に地響きが街を揺るがした。音はだいぶ後になってからやってきた。南の空が赤く変わっていく光景を古代はただ茫然と見た。

それが日本に落ちた最初の遊星爆弾だった。