君のいる場所~第一章~【三話】
城内_
誰にも見つからないよう、二人は穴から中に入った。
たった数時間の間だったが、二人は長く外にいたような感覚に陥ってる。
今は、廊下を歩く音だけが響いている。
「また、行きたいな…」
カナデはそう無意識に呟いた。
「もうだめですよ。今度こそ怒られます」
「わ、分かってるよ!でも…」
少し悲しそうな表情をし、顔を俯かせるカナデ。
アリサは、カナデの気持ちを痛いほど理解していた。
アリサ自身も、出来ることならもう一度あそこに行きたい。
カナデを連れて行ってあげたいという気持ちでいっぱいだ。
しかし、彼を守るのが役目の自分には、連れて行くことも出来ない。
心が痛むのが分かる。
だが今回ばっかりは、仕方のないことだ。
アリサは自身にそう言い聞かせ続けた。
「早く大人になりたいよ…」
きっとまた、無意識のうちに呟いたのだろう。
だがそれは前々から言っていたことだった。
大人じゃないことの苦痛。
カナデは、自由を求めている。
誰にも邪魔されない自由な生活。
それが、今のカナデの願いだ。
「そうですね…」
アリサは廊下の窓に目を向けそう言った。
大きいようで小さな窓の外には、青く広い空があるだけだった。
王室間前_
ルイは扉をノックする。
「誰だ」
すると中から野太い声が返ってきた。
「ルイです。ただいま戻りました」
誰に見せるわけでもないが律儀にお辞儀をするルイ。
「おぉ、ルイか。入ってよいぞ」
優しげな声が聞こえると、ルイは扉を開く。
「失礼します」
中には椅子に座った中年の男が一人いるだけ。
他に、人の気配はない。
男はルイの顔を見て少し目を見開く。
「城を出て行ったときよりも顔色がいいな。何かあったのか?」
図星を指されたが平静を装うルイ。
「いえ、特に何も」
その返事を聞き、男がふっと笑みをもらす。
「お前が幼い頃から私はお前を見ている。顔を見れば何があったか何てすぐに分かる」
「…」
無言になってしまうルイ。
その反応を見てから、また男は笑みをもらした。
「まぁよい、ご苦労であった。部屋へ戻るとよい」
「ありがとうございます、ダージス国王」
目の前にいる男、ダージスに一礼し、部屋を去る。
一人廊下を歩くルイは、二人の子どもの顔を思い出していた。
「国王様、あの子たちは世話が焼けますが…。僕が守って行きますよ。ずっと…」
誰に話すわけでもないが、そんな決意をルイは心に誓う。
カナデとアリサを、自分の命に代えても守り抜く。
それが、今の自分が二人に出来ることの一つである。
ふと、視線を窓の外に移す。
そこには真っ青な空がただ広がっているだけだった。
作品名:君のいる場所~第一章~【三話】 作家名:まおな