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超絶勇者ブレイブマン その9

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「ご協力お願いしまーす! 些細な情報でもお待ちしてまーす!」
 3人の元気な声が駅前で響く。――いや、正確に言うと、人見知りの可恋は小さく「お願いします」と呟くだけであった。だが、若者らしい懸命さが伝わったのか、張り紙(――チラシと言うべきか)を受け取ってくれる人は多かった。中には、大変そうねえと声をかけてくれるお婆さんもいた。
 生憎、捨て猫についての情報を持っている人はいなさそうであったが、元々そう簡単な話ではないと思っていたため、落胆の気持ちはなかった。何かのために必死になっているという充足感が彼らの自己満足を促した。
 結局のところ、彼らはまだ考えの浅い子供である。例え無意味なことであっても、何かに努力することが重要なのだという考えがあったのかもしれない。無論、それは必ずしも間違いであるとは言えないが、それ故に彼らは自分たちの計画が綻び始めていることにすぐには気付けなかったのだ。
 3人の前を一人の若者が通り過ぎようとしていた。緩い髪型の茶髪で、肩に鞄を掛けダルそうに歩く、いかにも大学生風の男であった。勇気が前に出て、声掛けをしながらチラシを渡すと、何事かという顔をしながらも受け取ってくれた。そこまではよかった。
「あっ……」
 しばらくして、可恋が小さく呻いた。そして、チラシを抱えたまま、目線の先へと駆けていった。愛もすぐにその様子に気付き、追いかけた。
「どうしたの、可恋ちゃん?」
「これ……」
 可恋が指さしたのは、駅前に設置されたゴミ箱であった。そこには大量のチラシの山。3人で一生懸命配ったチラシが捨てられていたのである。
「あの人……!」
 愛は怒って大学生風の男の背中を追いかけようとした。しかし、すぐさま可恋が腕を掴み、それを制止した。
「駄目だよ、愛ちゃん……。怒っても仕方がないことだよ」
「でも、いらないならいらないって言えばいいじゃん! 受け取っておいて目の前で捨てるってどういうこと!?」
「ううーん、受け取ってくれただけありがたいんじゃないかな……。ちょっとでも興味を持ってくれたってことなんだから……」
 可恋は憤る愛を必死に宥めた。しかし、このことはそのような言葉で解決する問題ではなかった。ふたりが勇気の元へ戻ろうと振り返ると、そこには40〜50代くらいの警察官がいて何やら勇気に話しかけている様子だったのだ。
「君たち、悪いんだけどさ、誰か大人の許可を得てやっているのかな? いやね、私は駅前の交番の者なんだけどさ、駅員さんに構内のゴミ箱に紙切れがたくさん捨ててあるみたいだなんて言われちゃってね。
 頑張ってるのは分かるけど、私としても見過ごすわけにはいかないんだよね」
「あ……、ごめんなさい。誰にも許可は得ていないです……。すみません、ゴミ箱に捨てられているのも含めて全部回収して帰りますから。俺たちの考えが甘かったです」
 普段は前向きな勇気も、このときばかりはがっくりと肩を落とし、落ち込んでいる様子であった。それに対し、愛は落ち込む様子もなく、食って掛かるように警察官に反論をした。
「ちょっと待ってください! ここってギリギリ公道ですよね!? 公道でチラシ配りしちゃいけないなんて法律でもあるんですか!?」
「うーん、確かに今回のような飼い主探し、……っと、捨てられていたチラシによると、元々の飼い主を探してるんだっけ? どのみち、チラシ配りが道路交通法第77条第1項第4号の『一般交通に著しい影響を及ぼすような行為』にあたるかと言われるかと言われれば、そうとは言いづらいんだよね」
「だったら――」
 愛は言葉を続けようとした。しかし、可恋はやはりそれを制止した。
「やめようよ、愛ちゃん。警察官さん、困ってるよ。ううん、本当なら有無を言わさずに力尽くで私たちを立ち退かせることだってできるはずだから困らないはずなんだよ。でも、警察官さんはちゃんと説明して分かってくれるようにしてくれてる。
 ここは警察官さんの顔を立てて、素直に引き下がってあげるべきじゃないのかな……」
「可恋ちゃん……」
 親友の言葉によって、ようやく愛も折れることにした。勇気や可恋にこれ以上迷惑を掛けるわけにもいかなかった。それを見て、勇気はもう一度謝罪の言葉を警察官に対して口にして、チラシの片付けをして帰ろうとした。そのとき、警察官は駅構内のゴミ箱から拾ったチラシを見ながら、こう言ってくれた。
「私が言うのもなんだけどさ、そう気を落とさずにね。私の方でも、この元飼い主を探してみるからさ。何かあれば、この携帯番号に掛ければいいのかな」
「は、はい! お願いします!」
 思ってもいなかった言葉に驚きながら勇気はお礼を言った。それからみんなでチラシを回収して、その日の元飼い主探しは終了したのであった。