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君のいる場所~第一章~【一話】

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【一話】


街のとある場所_


久しぶりの外に、カナデは興奮を隠せずにいた。

「すげぇ…城下の街ってこんなに大きかったか?」

辺りを見回しながら隣にいるアリサに問う。

「つい先月ルイお兄様の付き添いで城下へ来ましたが…一ヶ月の間にも活気はさらに増していますね」

アリサも多少驚きはしたが、すぐに城下の雰囲気に慣れていった。
一方カナデは圧倒されっぱなしで、慣れるのにも少し時間がかかりそうだ。
しばらく歩いていると、いつの間にか人気のない道に出ていた。
その先には小さな森が二人を待ち望んでいたかのようにそびえ立っている。

「あの森は?」

カナデは少し怯えた声色で呟く。

「あれは小規模な森ですが、人々に大切に守られて来た森だそうです。神が住んでいると言う言い伝えもあるくらい、神聖な森だと、ルイお兄様が言っていました」

一通りの説明を聞くと、カナデは目を輝かせた。

「あそこに行くぞ!」

アリサの手を引き森へ入ろうとする。

「だめです!これ以上奥に進んではいけません!」

アリサは、カナデの腕を掴みこちらに引き戻そうとするがあえなく失敗。
子どもとは言え、やはり男女の差があるようだ。
カナデに引きずられる形で二人は森の奥へと進んで行く。
少し歩いたところで、少し狭かった道が開け、野原のような場所に出た。
そこに、見慣れないものがあった。

「お、おいアリサ、あれは何だ?」

カナデが指差したものは一軒の木造の家だった。
シャレた雰囲気だが落ち着きがあり、煙突からは微量の煙が上がっている。
この世界では珍しい家の造りだ。

「看板から見るに…何かを売っている所でしょうか」

外にはメニューらしきものはなく、あるのは「OPEN」という文字が書かれている看板だけ。
扉についているガラス窓にはカーテンが掛かっており、中の様子は覗えない。

「は、入ってみるか?」

カナデはアリサの有無も聞かずにドアノブに手をかけようとしたとき、扉が奥に開いた。
二人は肩を震わせ、目の前に立つ人の顔を見る。
そこに立っていたのはスーツを着た青年。

「ル、ル、ルイお兄様…」

アリサが震えた声と怯えた表情でそう呟いた。
そう、目の前に立っていたのはアリサの兄であるルイだったのだ。
ルイも同様、城につかえる者の一人である。
ルイは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
だが目は、ひとつも笑ってはいない。

「二人は何故ここにいるのですか?」

優しいトーンでそう言うが、二人にとってはそれが恐ろしくて仕方がなかった。

「えっと、その…」

アリサが言葉につまり、俯く。
変わりにカナデが、震えながらも口を開く。

「街を進んでったら、森があって、それで、入ったら、家があってそれで…」
「僕は」

カナデの言葉を遮る形でルイが言った。

「何故外にいるのかと聞いているのです」

変わらないトーンで二人に問う。
ルイの顔からは次第に笑顔がなくなり、目を細めアリサを見据える。

「アリサ、貴女はカナデ様の何ですか?」

びくっと身体を震わせ、泣きそうな顔でルイを見る。

「えと…お世話係、です」
「その通り。ではお世話係は何のためにいるのですか?一緒に外へ行くためですか?」
「違い、ます…。一番近くで、カナデ様をお守りするためです…」
「その通りです」

そう言うとルイは小さくため息をついた。

「今回は何もなかったからよかったものの、カナデ様に何かあったらどうするつもりだったんですか?」
「うぅ…すいません」

素直に謝るアリサ。
それを聞くとまた小さなため息をついた。

「今回は特別に国王様には黙っておいてあげます。ですが次はありませんよ」

そうぴしゃりと言い放つと、二人を抱え近くにとめてあった馬に乗せる。

「何だかんだ言って優しいよな、ルイは」

アリサだけに聞こえる声でカナデがそう言った。

「はい…」

ルイも馬に乗り、二人が落ちないよう補助をしながら馬を出発させる。

「では、帰りましょう、城に」

そう言ったとき、馬のうなりと共に、勢いよく馬が森を駆けて行った。