いるいる辞典 ベタベタ事件
「新谷君、この場合はこうしたほうが効率がいいと思うよ」
「えっと、これをこっちってコトですか」
「う~んとね、そうしてから順番を変えるんだ。分からないかな。じゃあ、僕が順番を書いてあげるね」
「いつもありがとうございます。僕、そういうのどうしてもできなくて」
「優先順位はちゃんとつけようね」
中西がフローチャートを書いて手渡す。坊やはまじまじと見つめ、ふんふんと頷いている。どこまで分かっているのかは毎度のコトながら不明である。次には忘れているからだ。
「これ、分かりやすいですぅ。すごいなぁ。尊敬しちゃいます」
「はははっ、可愛いやつだなぁ。息子が増えたみたいだよ。にしては大きいけどな」
「弟じゃ駄目ですか。僕、お兄ちゃんが欲しかったんですよ」
あの笑顔で愛嬌を振りまいて、というよりは媚びているようにしか見えない。中西は何故か頭を撫でてやっている。全くこの2人はなんなんだ。
「あとな、これは宿題だ。新谷君が苦手なケースだ。昼休憩にやっておきなよ。冷静に考えれば分かるからね」
中西は優しい笑顔で手を振って席に戻っていった。何故手を振るのかよく分からないのだが。普通は肩を叩くものなのでは。
昼休憩に坊やは言われた通りに宿題とやらをしていた。難しい顔をして考え込んでいる。しばらくしておもむろにペンを取り、答えを書き込んだ。所要時間は30分。どこまでものんびりとしている。坊やはすぐに中西に見せに行った。
「正解。やればできるじゃないか。花丸あげるよ」
「やった。花丸だ。こういうふうにやればいいんですね」
「そうだよ。難しくなかったろ」
「はい。僕、できましたっ」
また中西は頭を撫でてやっている。満面の笑みで。坊やの笑顔もはち切れんばかりだ。この2人の関係はどうなっているんだ。絶対何かがおかしい。
作品名:いるいる辞典 ベタベタ事件 作家名:飛鳥川 葵